Category カテゴリー

第六章 後半 :自分を伝えること語ることに慣れておこう


特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

生徒からの自己紹介が終わると私はひとつ、ふたつ尋ねてみる。
学術的なことじゃない。いま、関心のあることや故郷のことだ。
学生たちの出身地は当然、地元群馬が多かったが、隣接する長野、埼玉、新潟さらには山形出身もいた。

「群馬県で誇れるものは?」と尋ねてみるが、これが出てこない。

1、上州は温泉のメッカだろうが・・・上州八湯八湖とかいって、湖や池のそばに温泉がある。
それでなくても、草津、伊香保、水上と名だたる温泉が連なる。けっこう名湯が多いところだ。

2、「食べるもので何かないか?」「山の中だからおいしいもんないし」
日本三大うどんの「水沢うどん」があるだろう。食材としてはこんにゃくにねぎがあるだろうに。
「そうだ、Haradaのラスクがあります。」―たしかにこれはおいしい。

3、講師を始めて2年たった時に「富岡製糸場」が「世界遺産」に認定された。
こりゃ誇りとして言う人間もいるだろう、と思ったが皆無。

地元の時事情報にはアンテナを張っておくこと。
今年、群馬の企業なら、採用試験でなんらかの形式で出題するよ。

自己紹介といっても、自分を授業で語る術を知らない。
この大学で何を学び、どんな職に就きたいか明確にはもっていない。
中には「ブライダル総論が楽しみです」なんて、言ってくれる学生もいたがもちろん社交辞令である。
多くは名前を言い、絞り出すようにどんな職種を考えているかを口にしていた。

「我々は人生の中で、誰でも何度か周囲から注目される主人公になるときがあるね?わかる?」

「・・・入学式とか?」

「誰からも祝福され主人公になる。入学式や卒業式はその人だけじゃないね・・・まず生まれてきた日。
そして人生を全うした日、葬儀のときを含めてね。」

「あとは結婚?」

「そう、誰からも祝福されて・・・休みだって胸張って取れる。
それに、それに我々の記憶にあるのは、この結婚のときしかないんだ。
たしかにお祝い事や何か達成した時もそうだけど、誰でもそうなるわけじゃないね。」

だからこだわりをもつ。だから印象に残る楽しいものにしたい。
我儘になるのはある意味当然だろう。
婚礼という商品を提供する我々はいかにお客様の気持ちに沿うように説明しなければならないか。
婚礼のプランなんかを作るときはカップルの気持ちをグッと引き寄せるものを考えなければならない。

授業は教科書通りに進めるのではなく、2コマはグループに分けて、
婚礼プランを作成することに費やした。
高校を卒業したばかりの学生たちにとって、料金も演出も挙式の流れも理解していない。
単なる遊びじゃないかといえばその通り、ただ婚礼という催事に関し、
やりたいことを追うだけで、何か興味は出てくる。
具体性は欠くものであっても、それでいいと思った。

ディズニーランドでやる。音楽は・・・、新郎とケーキを・・・。
出てくるものは点のものばかりで、連続性や流れがない。
挙式についても、奇抜なワンシーン的なもので、やるべきこと参列者のことは眼中にない。
だからプレゼンテーションにしても、単に遊びの報告みたいになる。

しかし、人前に出て、やりたいことを語ることが真の目的だ。
グループで同じ意見ばかりじゃないだろう。人の意見を聞いて、
それを理解すること、わからなければ問いただすこと。

勢いの強い人に仕切られることも多いだろうが、どのように意見をはすむか?
ブライダルの授業を通して自分の意見をしっかりと言えるようになることが大事だ。
授業の中でこんなものがあってもいいだろう。

「いいですかー、自分が生まれ育った県がどんなところで、どんな名所、名産があるか認識すること。
そして故郷を好きになることだな。自分の自己紹介も同じ、
好きな男性にはいいところを見せようとするだろう」

「自己紹介ってある意味、アピールだと思ってください。
だから、自分の特性、秀でている面、自分がやりたいことは何か、
それを実現するためには何をするか、実際何をしているか…。常日頃から意識して考えてみてください」

私がこの大学で講師をしていたのは4年間で、合計120名ほどの学生と出会った。

オリエンテーションのとき、こんなことばかりしていたから教科書の説明は常に抜けていた。
おかげで教科書を購入した生徒は4年間で0だった。
2年目に教科書を取り扱っている書店から連絡があったが、
その後も同じだったということは、さほど強い意識がなかったのだろう。
考えてみれば、異端であったのかもしれないな。

ただ、この授業を4年間受け持つことにより、
社会人になる彼女たちにひとつでも何か印象に残るものを残せていたらと願う。

コメントをどうぞ

Spam Protection by WP-SpamFree

▲ページの先頭へ戻る