第一章:コーヒーの料金がこんなに異なるのは


特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

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●料金ってどうやって決めるの?

私が就職した昭和55年は繁華街に喫茶店が数多くあった。
名曲喫茶、ゲーム喫茶、それにコーヒー専門店。
チェーン店で営業しているところも数多くあったが、コーヒー一杯の料金は、当時おおむね250円程度だった。
それに比べホテルのティールームで提供されるコーヒーは2~3倍の料金であり、
500ccぐらいのポットで提供されると3倍強の料金だったりした。 

「椿君、ホテルのコーヒーがそれだけの料金をとる理由ってなんだろうね?」

 K氏は私が就職したホテルニューオータニで40歳前に役員になった人物で、
私が通っていた立教大学の講義でも講師として来ることがあった。
だから、就職に際しお願いに伺っていた。その際、問われたことがこれである。  

「はい、いい原料を使っていることもありますが、
スタッフのサービスなどを考慮して金額を設定しているものと思います。」   

当時、私は結構コーヒーが好きだった。とはいえ、味そのものがわかるわけじゃない。
ただあの琥珀色の飲み物は、自分を大人に思わせる不思議な魅力があった。
本当はメロンソーダ、チョコレートパフェといきたいところだが、
「ホット・・・」とか言って、たばこを燻らせるようなポーズをとりたがっていた。
いくつかそんな雰囲気を出せる店を個人的に挙げると
・原宿 アンセーニュダングル  
・表参道 カフェ レ ジュ グルニエ  
・神保町 古瀬戸、カフェ・トロワバグあたりになる。
他にもいかにもカフェらしい店は多くあるだろうし、
私が通いつめたところもあったが、今では閉店しているところも多い。
これらの店のコーヒーは間違いなく美味い。雰囲気もいい。でもホテルのティールームに比べると料金は安い。 

では、料金の設定にはどういうものが起因しているのだろうか?  

これらのカフェは概ねコーヒーを作るマスターとアルバイト数名というのが普通だ。
よって、経費は土地代、原料費、カップ他小物、人件費ということになる。
こういった店では一人でどれくらいのお客様、テーブル数に対応できるのだろうか?
アンセーニュダングルはキッチンの前にカウンターが6,7席。
中央に10名ぐらいのテーブル席、窓際に2名から4名程度のテーブル席が3,4程度配置されていた。
これを時間にもよるが、2名で対応していた。当時アルバイトの時給は500~600円ぐらいだったろう。
これがホテルのティールームとなるとこうはいかない。席数もそうだが、メニューももっと多種になる。
スタッフ数も増えるだろうし、器なども多くなる。たしかに売り上げは伸びるだろうが、経費もかなりふくれてしまう。
また社員となればアルバイトより福利厚生費もあるし、一人あたりの人件費もはるかに高額になる。
ホテルにはこのようなカフェの類は直営ではもたないのが一般的である。
多岐にわたるお客様の希望に沿うようにメニューを豊富にする。
それは飲み物だけでなく、お腹にたまるものも用意している。
私も若い頃、このようなカフェがホテルにあってもいいのに、と思ったこともあったが、
その敷地での売り上げ、利用客の層、ティールームというものがホテルではどんな役割を果たしているか、
などを考えると、たしかに難しい。  

時折ホテルでも、「コーヒー専門店」のようなお店を構えているところもある。
しかし、これはテナント、外部委託である。
ホテルが直営として営んでいる施設はあらゆるニーズに応えるのが一般的である。
施設というのは面積を大きくし、提供するものが多くなればなるほど業務量は複雑になり、対応するケースも多様になる。
たとえば、ビジネスホテルのように宿泊に特化した形式であれば、人員の振り分けも楽だ。
部屋を提供するフロント業務と、販売する客室業務が中心となる。
これが、レストランを有し、朝食を営業するとなると、スタッフをどこから集めるか?
仮にレストランのスタッフを一つの部署として集めたとなれば、朝食だけでなく営業時間を広げなければ採算が合わない。
朝食を外部機関に委ねたり、フロントのスタッフが朝食の対応をするというのは、よくあるケースである。
このように利用するお客様の動きを考慮し、そのニーズに応えようとすると、業務量が増えるのは事実である。

ティールームの用途は  

では、コーヒー専門店ではなく、いわゆる喫茶店と呼ばれる店の料金はどうだろう。
たとえば、「談話室 滝沢」とか「ルノアール」といった少し高級のところは、
ゆったりとした配置でもあり、料金は少し高額。
一方「マイアミ」や「パリシェ」(どちらも最近ほとんど見かけなくなった)のような店はかなり大衆的だ。
しかも、これらの店は飲み物のみならず、スパゲティやサンドイッチのようなものまで提供している。
つまり、経費はある程度かかってしまうので他の部分で経費を削ったり、売り上げを伸ばしたりしなければならない。
方策としてはいろいろあるだろうが、たとえば店舗を大きくして、団体客でも取り込む。
しかし、一方人件費はなるべくかからないようにする。ホールはできる限り最低限の人数で賄う。
一例として、時間によってメニューを制限して、対応可能にする。
セットメニューだけにして売り上げを図る時間帯を設ける。
利益率の高いもの(アルコール類)などを提供するなどと検討する必要がある。
基本的には、なるべく大人数のお客様が利用するように心がけ、お客様の回転がいいようにてきぱきと動く。
そして付帯の売り上げも考える。
しかし、以前は短時間の利用客が多かった(営業マンのたまり場のような傾向もあった)喫茶店も
「ドトール」「タリーズ」のようなカジュアルな店の出現によって、厳しい状況となっている。   

さて、ホテルのティールームの料金である。 

先に述べたようにコーヒーという飲み物はどこか大人びたような、気持ちが背伸びしたようなものがある。
つまり、嗜好品、ある意味贅沢品でもある。
食事は日常生活で欠かすことのできないものであるが、コーヒーはたとえ口にしなくとも何ら生活に支障はない。
たとえば、衣類というものは、生活に必要であるが、装飾品はそういうものではない。
しかしながら、装飾品は人に輝きを与える。個性を表出する。
世の中にはそんな必需品ではないが、その人の人となり、個性を表すものがある。
そしてそういったもので、評価されたり、ステータスがはかられたりする。
ホテルのティールームはどんなときに利用されるだろう。
もちろん、ちょっとのどを潤したいということもあるだろう。
一方何らかの意図があるから、ホテルのティールームを利用するということもある。
商談、打ち合わせ等とビジネスに利用したり、土曜日曜にはお見合いや、その集合場所としての利用もある。
ホテルではその利用目的を尋ねられることがある。そしてその用途に応じて、席を用意してくれる。
たとえば、お見合いと聞けば、なるべくはずれの席を用意し、混雑していないところを案内する。
たとえ混みあっていても、若者のグループなどないところに席を用意する。
これは、席を立ったり座ったり、大声で話されたりしたら、紹介もできなくなくなるからである。
ホテルのティールームの料金が高いのは、その用途に応じて対応してくれるから、これもある。
そして、テーブルの間隔を広げゆったりとした配置にする。
これにより、物理的、精神的な贅沢を感じさせてくれる。
そもそも私のように、当時大人っぽい感覚を味わうためなどというのは
日常とは異なる雰囲気、空間を求めているのである。  贅沢な想いというのは何よりのものだろう。
ホテルニューオータニのガーデンラウンジというティールームは天井高もあり、
全面ガラス張りの向こう側に庭園が広がる。
たしかに時間が許せばいくらでもいたいと思わせる贅沢な空間である。
こうした贅沢気分料というのも料金に含まれているのかもしれない。
外の景色が目に入るというのは確かに気持ちがいい。
ちなみに大きなティールームではないが、山の上ホテルのロビーにあるティールームもいい。
目の前に公園があり、料金も良心的。
そして健康に配慮したドリンクを口にすると、若いときと異なる満足感が広がってくる。    

さて、K氏から問いかけられた質問になかなか答えは見つけられない。
いや、こうだって定義づけできるものではないだろう。
サービス業、接客業に従事する人間にとって、
「なぜ」という疑問を抱きながら、 業務に邁進することが必要なのかもしれない。。。。



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