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第五章 後半 :苦情、指摘事項には速やかに連絡を


特別連載企画
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

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●ひとりじゃ処理はできません
ホテルでのクレーム対応で、先方の住まい岡山へお詫びに出向いたものの、
予想通り、すっきり解決とはいかなかった。怒声も罵声もなくおだやかに2時間話したが、
用意した見舞金もお菓子も受け取ることはなかった。
遠慮してではなく、こんなもんじゃ納得しない、という意思表示だった。先方の要求内容を言うと、

1、 金銭ではなく、私自身の精神的ダメージを考えて対応してほしい。
2、 よって経営責任者である社長名での詫び状(保証)がなければ
        当社に対して安心できない、恐怖心がぬぐえない

とってつけたような理屈であるが、これが申し出事項。
ちなみに地元の名士とつながりも深く、いつも、エコノミークラスではない方法で、
東京を行き来している。東京へは仕事の関係で、赤坂、六本木によく来るとのこと。

翌日、総支配人に報告。

「社長名での手紙は駄目だよ」「ですよね・・・じゃ総支配人名で・・・」「う~ん」

この件は決裂するものと認識していた。となれば、幕引きのための確認事項がいくつかある。
安全管理室を通して、ホテルニューオータニの顧問弁護士にアポイントを取ってもらう。
一方、先方との連絡は続く。
社長名での詫び状を強く求めてきたが、総支配人名での名前で納得していただく。
筆耕に毛筆で書いていただいたが、文面はいたって平易であたりさわりのないものにした。
おそらく「私の意を汲んでいない」「具体的にどうするのか記されていない」など、
まちがいなく、クレームを言ってくるだろう。

弁護士事務所における確認事項
・たとえ羽田までの所要時間を誤って案内したとしても、
   乗るべき本人が事前に調べておくのが道理である。よってホテル側が負うべき責任はない。
・空港からの電話を受けた担当者の対応が悪く、精神的苦痛を受けた。これはあまりに不鮮明。
   宿泊代、クリーニング代、病院代等一切もつ必要なし。

ホテルの誠意は、私がお詫びに行ったことで十分。総支配人名での詫び状まで出すことなし

「ところで、椿さん、電話のやりとり録音してある?」

「はい、してあります。ちなみに岡山でお会いした時のもここに・・・聞きづらいですけど
   ちゃんととれています。JALの顧客で乗車していれば、すぐに挨拶してくれる。
東京には営業で頻繁に来るので、よく知っていると。ちゃんとはいっています。」

「では、先方が金品の要求をしたら、私共の方でやらせていただきます。」
おそらく社長名での詫び状、金銭等の要求を拒否すれば先方からは以前と同様に、
激しい口調での叱責が続くことになるだろう。
そして対応する相手となれば総支配人を要求するに違いない。
となれば、当社の方針までは伝え、それから先は弁護士に委ねるしかない。

「ではホテルは社長名での詫び状はお出しにならないということですね?」

「はい、お客様のご希望には沿いかねるという結論に至りました。」

「何度も申し上げているように、私は不安で、
 こうしていてもゆっくり休めない状態であるということがわからないのですか?」

「ホテルといたしましては、私が岡山まで伺い、陳謝の意はお伝えしたものと認識いたしております」
「そんなことで納得できません。私はあの日・・・」

この一連の出来事に関する金銭の要求をしてきた。よどみなく文句と金額をまくしたてる。
数字はかなり大きいがあらかじめ考えていたのか、項目は細かい。
最後に「よく考えてください」と言って、電話は切られた。
●思うこと
後日、弁護士事務所から先方に手紙発送。
今後、当件の窓口は弁護士事務所になるとの内容で。
いつもながら事務所に在籍する先生方の名前が連なる手紙は壮観だ。
この類の苦情は多い。対応の拙さに対する指摘をするが、
ホテルは調査したうえで返事すると言ったきり何ら連絡がない。
その時の思いがよみがえりもするだろう、ましてや自分が想定した回答ではない。
ヒステリックにもなるのも分かる。ただ、これに対応するスタッフも人間だ。
いきなり罵声を浴びせられれば、相手をクレージーとも思う。
さて、一般的に調べた結果をお客様に伝えるのは一両日ぐらいまでか?
それが難しいのであれば、あらかじめ日数をいただくか、途中経過を連絡すべきだろう。

私が耳を疑ったのは、さんざん苦言を言われながら、それでも何もしなかったことだ。
その結果、社長宛に手紙が届くことになる。こうなると後手だ。
おそらくあの勢いで言われたから何も手に就かなかった。
というのはわかるが・・・基本的に嫌なことは、早く取り掛かるべきだろう。
一般的に遠方、かつ難易度が高い問題に対処する場合、一人では行かないのが原則だ。
まず危険の回避、土地に不案内それだけで不安だ。また相手はどういった人物かわからない。

さらに、聞き取り役が必要だ。中立でないのに、必要かと思う人もいるだろう、
しかし交渉役は冷静に話の流れを理解できるものでもない。後々報告必要となる。
最後にお詫びであれ、交渉であれ、上司の存在というものは重要だ。
おそらく、この時ホスピタリティリレーションズの課長は状況を部長に説明はしていたのだろう。
部長の役割は担当者の支え、後ろ盾となることであり、総支配人に説明、調整を図ることである。
こういう方向と思っていたことが、総支配人に呼ばれて指示を受けたら、意向が全然違っていた。
先方が全く納得せず、怒りがエスカレートしているのに、何ら携わろうとしてもらえない。
こんなことが続くと気持ちも萎えてくる。

そして、苦情処理、交渉事において、こうした状況が負のスパイラルを招いてしまう。
苦情処理、交渉については別の章でまた記す。
方向性がしっかりしていて、後ろ盾がいれば、こんなにやりやすいか・・・
さて、弁護士事務所に手紙を発送していただいたのち、この件はどうなったか?
当然当社にも苦情を言ってくるものと思っていた。――なかった。

弁護士事務所には2通手紙が来たという。ホテルニューオータニを「社会の悪」と断じ、
テレビの公開番組でその是非を問う、と意気込んでいたという。
ホテルニューオータニのような社会悪を弁護士のあなたがたもしっかり注意しなければなりません。
だいたい、この手紙をちゃんと読んでいるのかとの文面。

返信内容。
ー読んでいます

それで、すべて終わった。その後連絡はなかった。
もちろん、テレビで公開討論されることもなかった。
こうした対応でよかったのかわからない。
総支配人は、社長名での詫び状を要求された段階で、先方が納得する終結はあきらめたようだった。
本音はわからない。

「じゃー請求、まわしてくださいね」
「いや、顧問料いただいているので、いいですよ」
「いや、それじゃ、切手代も出ない」
「大丈夫ですよ」
「いやいやいや、それじゃ切手代だけでも請求してください」と、
ここでは、ずいぶん細かい交渉になった。

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