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第七章 前半 :お客様とは、ほどよく節度ある付き合いを


特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~
fだ
韓国から来たプレスリー
お客様がこのホテルを気に入ってくれて、「ありがとう、お世話になった」
「快適だった。また利用する」とお礼の言葉を投げかけてくれることがある。
限られた時間しかお客様と接する機会のない現場のスタッフにとって、何よりの励みになるものだ。
まして、再度利用いただき「おなじみ」「顧客」になっていけば、その自信、喜びは計り知れない。

平成15年、急に1週間10日単位で利用する韓国人が現れた、
そのいで立ちは「エルビス・オン・ステージ」のエルビスそのもの。
「サスピシャスマインド」でも流したら腕を回しそうな感じだった。
日本語は100パーセントと言わないまでも、しっかり話す。
出身高校は日比谷高校、それも学校群制度の前というが、年齢から言って合わない。
建築のデザイナーをやっているそうだがビジネスで尋ねてくる人はいないし作業しているとも思えない。
当ホテルにいないときに仕事をしているのだろうか。ところが滞在期間が長くなってきた。
一ヵ月の内2,3日を除いて宿泊するようになっていた。

当時、私はまだゲストサービス課支配人。
宿泊部のミーティングでこのお客様の話題がちらほらでるようになっていた。
「支払いは?」
「ステートメント出すと、きちんと・・・」
「個人?」
「そう」
「予約は誰かの紹介?」
「いや、本人から当日予約」
「今回一ヵ月ぐらいの滞在だけど・・・いいの、長期で?」
「実績から考えて、支払い等問題なし、承認した」

そりゃ認めちゃうよな。でも、部屋に伺うスタッフは必ず話しかけられ、他の要件を依頼される。
しだいに対応できるスタッフも限られてくる。
「椿さん、どうもあのお客さん、フロントやベルのスタッフを誘って飲みに行っているようです」
メインの客室係長からの進言があった。
「ホントー、いいなあ」
「支配人、何言ってんですか・・・」「・・・」
「それで、うちのYもどうやら・・・」「かなりスタッフに入り込んでいるみたいだね」
「ちょっと、聞いていただけますか?」「いいよ、オレも誘えってな・・・」
「・・・」

聞いてみた。フロント、ベル数名のスタッフがそのお客様と懇意にしているようだ。
話をしてみると知識があり、勉強になるとのこと。

「支払いは?」
「結構ごちそうになっている。」
「スタッフの話なんかもするの?」
「少し、あ 支配人のことは悪く言ってないです」(当たり前だ)

どうやら売り上げにもなるし、これだけ利用している顧客だから、
機嫌を損ねないように対応しているというのは容易に察しがつく。売り上げに貢献している。そう自負している。
 
そして騒ぎ出した
翌年、私はホスピタリティリレーションズに異動。
このお客様はすっかりホテルの顧客になっている。
宿泊は2,3か月単位で利用、フロントのH係長扱い。目に映る姿は相変わらず、プレスリーだ。
ロビーでも異様だ。場違いだ。当ホテルを利用しだして一年あまり経過した11月。
ちょっとしたことから、このお客様が騒ぎ出す。
客室のスタッフが客室の清掃の有無を尋ねた。本人は依頼したつもり。
スタッフは不要と認識した。日本語の曖昧なやり取りを確認しなかった。
お客様は長期の利用とはいえ韓国の方だ。
部屋に戻ってきて、清掃ができていないのを知り激怒。「責任者を呼べ」係長、部屋に伺いお詫び。
ところが「どっちの言うことを信じる?」の問いかけに「スタッフです」と返答してしまう。
いろいろやり取りはあったろう。でも、これ言っちゃだめだよ。
「ホテルで偉いやつを呼べ」副総支配人代行臨場。
しかし相手は総支配人との面談を希望している。それ以外は頭下げられても納得しない。
ホテルで決定権のある人間に認めてもらいたいのだ。この日はここまで。
この日休みだった私は、翌日副総支配人代行から話を聞く。
「今日も、総支配人に会わせろって言ってきますよ」
「会わせるほどのことか?オレがお詫びしてんだよ」

 どうもホテルの組織のことを耳に入れている気がする。
本当に何か変えるには総支配人に話さなきゃダメって・・・誰かから聞いているんじゃないか。
「今回の件、総支配人に会わせたら、お前ら何やってんだって思われますよね・・・」
「・・・」「でも、サッカーの試合見ていても、韓国ってボール持ったら中央突破しますね」
「するな」「あの人もそんな面、あるような気がするんですよ」
「直進して来るってか」「ええ、目標に向かって・・・」

ご丁寧にこのお客様はフロントに総支配人との面会状を提出する。
正直どうでもいいと思っていた。面倒だというのが偽らざる気持ち。
セッティングしなきゃ、いつまでも威圧してくるだろうし、
会えば自分は特別顧客として総支配人のお墨付きを求めるだろう。
曰く「このホテルが本当に1流のホテルか私が確認する。そのためにお手伝いしたい。
自分は韓国でもホテル開業の準備をしている。」なんて言ってくるんだろうな。

この日、結局フロントのHに乞われ、このお客様とティールームでお会いした。
改めて今回の件で、総支配人は面談するつもりはない。私の方から報告申し上げ、
今後このようなことがないように徹底すると申し上げた。
納得したようなしないような、いずれにしてもこの日はこれで散会となった。

翌日、昼頃にやはり電話が入った。前日の対応では納得していない。
出てくる言葉は「総支配人とはいつ会える?」のフレーズだ。それに対する私の言葉も決まっている。

(お会いする予定はございません。私がうかがいます)エスカレートし、声は大きくなる。
「アンタじゃ役不足だ。」
「会わせないんだったら、俺は腹を切る」(幕末の勤王志士か・・・)「アンタはもういいよ」

この後、電話をかけまくったのだろう?宿泊部長から電話がかかってきた。
「あのお客さんから電話かかってきたようだけど、会議資料作っているんで、よろしく」「・・・」
結局、話をするのは昨日と同じフロントのHと私だ。
フロントの統括支配人も私と同年齢の課長も異動して、相談する人間もいない。

「あそこで腹を切るからな」
「そんな刃物もっているんですか?」
「はさみでも切れるだろ」「痛いですよ」
「・・・駐車場の入口の外で・・・あそこなら営業妨害にならないだろう」
「それでも銃刀法違反か何かにひっかかるんじゃないですか?」

これは説得にならない。
「椿さん」「ん」Hに声をかけられる。
「あれ、本当にやるかもしれないですよ」「そうだな」
「GMに話しましょうよ」「それしかないか・・・だけど、そうなるとそのあと、あの人何を言い出すか?」

会えば、総支配人は頭を下げる。
お客様が要求するのは、料金か、対応か、いやホテルのスタッフと話をしている・・・要求は違うな
どんな話し合いが行われたのか、細かい内容はわからない。
2,30分の話し合いののち、言われたことは、「これからは、お客様とよく話して、しっかり対応して」という言葉であり、
お客様からは「アンタ、ちゃんと総支配人に報告しろよ」の一言だった。
そして、ほどなく、今回の問題のきっかけを作った客室係長は、タワーに移った。
さらに、このお客様は対応に問題があったスタッフを各部署の長を通して呼び出し、顛末書を書かせることになる。
おそらくホテルの質を上げるようにする、とでも売り込んだのだろう。
記入した顛末書は私がチェックして、総支配人へ届けるというルートになっていた。
こんなことがなんら通知もなく、無理強いさせられる。組織として、あまりに脆弱だ。

ホテルの人事の話をひとつ。私がかねてよりお世話になっていたUが宿泊部に復帰した。
旭川北高校を卒業しながら大学に行かず当社に入社。
マネジメントで正月プランを担当、その後リゾートの総支配人を務める。
その知識、理詰めの話、対お客様、スタッフ指導でも部長以上の才覚の持ち主。
ただし私より8歳上、本社での役職課長、つまり今後出世の見込み、ラインに乗ることは無い。
そして総支配人とは合わないと思いこんでいる。

別のお客様の話をひとつ。
黒いスーツを身にまとい、アタシュケースをもつ不気味な連中をよくロビーで見るようになった。
金のためなら何でもするって感じだ。彼らのボスは土地の買収をやっているのか、
いずれにしてもまともじゃないのは一目でわかる。
さほど、宿泊はしていないようだが、ティールームによく顔を出しては、怪しい雰囲気を出している。
韓国のお客様は我が物顔で泊まっている。
顛末書を書かされるスタッフもあきらめか、楽しんでいるのか「わかりました」と嫌な顔ひとつしない。
そんなある日、フロントのベテラン女性スタッフがメッセージを間違えて伝えてしまった。
すぐに大きな声で怒鳴る。
「あんなでかい声じゃなくてもいいだろうが・・・」
「アピールしてるんでしょ」フロントのベテラン係長が平身低頭、一生懸命謝っている。
「椿さん、駄目だ、納得しない」
「どうしろって?」

呼ばれる。それにしてもひどい。もうホテルは自分の言いなり、総支配人のお墨付きだぞと水戸黄門のようになっている。
エルビスの印籠でも用意するか?

「こいつは駄目だ、フロントから異動させろ」(きたきたきた)
「そう思うだろ、お客に迷惑をかける」
「〇〇さん、お怒りはごもっともですが、人事につきましては、ホテル側にお任せいただけませんか・・・」
憤怒の形相、「なんだ、この野郎」と言って席を立つ。
よほど腹が立ったのかボールペンを忘れていったので急いで持っていく。
よく聞き取れなかったが、「なんだ、今頃」とか大声で言っていた。
あまりに怖い声だったので、ロビーにいた幼い子が泣き出す。一体何なの、と周囲の人から私がにらまれる。
アシスタントマネージャー席に戻ると、宿泊部長がいた。
「丁寧にお詫びして、詫び状書けばいいんだよ」(なんじゃそりゃ)。
U課長が近づいてくる。

「しばらく離れているうちにずいぶんうるさいロビーになったね」
「ひどくなったでしょ。これじゃお客様もいなくなりますよ」
二人の考えは一致していた。
こんなふうに異動を言い出し、自分の意に添わなければ、あたりかまわず大声を発する。他のお客様はどう思うか?
この頃、お客様のおしゃべりの相手をしていたのは客室支配人。騒ぎの翌日、その支配人から電話が入った。
「椿さん、時間あります?〇〇さん、呼んでいるんですけど・・・」
(早速、顛末書か?)部屋に伺うと、「おお」という言葉から始まった会話。
時折声は大きくなるが、比較的穏やかだった。
要は「彼女に注意を促すために、ああいう言動に出ただけで、異動云々は権限あるわけじゃない。
あとでアンタと手打ちと思っていたのに・・・女の前でいいカッコしやがって」ということだった。
「そりゃそうですよ、スタッフはみんな客室の一件以来、疑心暗鬼になっていますから」
(通じない、疑心暗鬼が理解できないようだ)それにしても、よくこんなふうに考えてくるものだ。
U課長と状況を確認する。あのお客様と飲食を共にしているのは、
H,Yの他フロントやベルの支配人も、それ以外は若いスタッフ。

「脇が甘いな。」「お客様と食事を共にすることになんとも思っていないんでしょ。」
「要は話す内容だ。ツラ合わせてりゃ、彼がどうの、彼女がどうだって、そんな話になる。」

今度チェックアウトするのは、ゴールデンウィーク前。戻ってくるのは、ゴールデンウィーク明け。
予約はまだ入っていない。
「断るんだったら、この時だね、どうする?」
「これ以上こんな情けない状態を続けられないですよ。」
「でも、総支配人がなあ・・・」
「何かあるんですか?」
「いや、スタッフの教育、頼むって頭下げたらしいよ。」
「そんな密室の話まで・・・ああ、流れますね」

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