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第七章 後半:お客様とは、ほどよく節度ある付き合いを


特別連載企画 
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

●ごちそうになった産物
「説明お願いしますね」
「いやですよ、椿さん、当事者じゃないですか?」
「だから、判断、決定権はなし。必然的に、ね。」
宿泊部長の了解を得て、総支配人に説明に上がる。いい顔はしていなかったが、薄々感じてもいたのだろう。
「大丈夫なの?」と懸念をもっていることは現したが、後は何も言わなかった。
とりあえず、他のスタッフには伝えなかった。今回のことで、情報が簡単にもれることは痛感していた。
予約はいつも、宿泊する当日フロントH宛にかかってくる。
おおよその日は部屋の清掃のこともあり、チェックアウトの時に聞いている。
今回、電話がかかってきたら、私のほうに電話を回すことにしている。荷物は相当量の預かりがある。
メンバーに宿泊を断ることを伝えたのは、前日だったか、当日だったか。
「U課長、総支配人には悪いことをしてしまいました。」
「・・・」
「総支配人に面談させろ、って訳の分からないお客様に会って・・・頭下げて・・・」
「申し訳ないって思っているわけ?」
「そりゃそうでしょ、結局 宿泊断るんだから」
「椿さん、それがGMの仕事ですよ。状況を把握していなくたって、お詫びしなきゃいけないし、
何かあったらその場に行って、指揮しなきゃいけないって・・・。
あの人、それわかっているんだろうけど、いやな顔はしていましたね」
そうだろうな。と、宿泊部長から「一枚岩になって対応しましょう」と言われる。
その日6時頃、お客様から電話が入る。私のところに電話がまわったので変な感じは抱いたことだろう。
そして思いもよらず「提供する部屋はない」と言われたのだから、腹も立ったろう。
いままであれだけ利用しているのに、この仕打ちはどういうことだ
「預けている荷物をまとめたいんだ。今日一日でいいから・・・」
「あいにく本日一泊でもご提供できません」
預かっている荷物はビデオ類で無用の長物であることは理解している。
泊まれば、延長、延長となるのは明白だこの後、フロントのHにも電話があったようだ。
断ったら、「ごちそうになるときは、調子のいいことを言うくせに、こんな時には何もしてくれない」
と強く言われたようだ。
結局、ニューオータニの向いにあるホテルに宿泊することになったようだ。
預かっていた荷物はYがお客様と連絡を取り、返却した。 

この件で、思うことはいくつもある。
でも何と言ってもU課長が宿泊部に復帰したことにつきる。
「お前じゃだめだ」と言われても、フォローしてくれる人がいる。
後ろ盾があるということはどれほど心強いことか。

「苦情処理は君のところが担当だね」
「問題が発生したとき、お会いしているんだったらちょうどいい。お詫びに行ってきてくれる」
上司からこんな言葉を言われたことがある。
難しい状況になった、協力がほしい、と望むものに限って、委ねられることがある。
人を変え、場所を変え、というのは苦情処理の一つの手段だがいつでもオレが変わるぞ、という姿勢は本当に心強い。
その気持ちだけで問題はクリアーできるものである。
スタッフがお客様と親しくすることに、とやかく言うつもりはない。
ただ、食事を共にすると、必要以上にそのお客様に「いい話」「甘い話」をしてしまう。
それが、人事のことや教育体制のことにおよび、
「言ってくださいよ」「いっしょに変えましょう」なんて言葉も発しかねない。

まず仕事の話はするな、世間話に努めろ、だ。
そして仕事の話になっても、人の話はするな、自分の人生を語れ、だ。
これは勝手な推測だが、このお客様との食事の席で彼らスタッフは、
「ホテルのランクを上げる、そのためにはスタッフの質を・・・」とか
「上がこんなふうに変わったら」とか人事の希望を口にしたのではないか?
そんな話が盛り上がるから・・・そう考えると、あのお客様も触発され、
いいところ見せようと思いたったような気がしないでもない。
この件があった数日後、あの不気味なお客様がアシスタントマネージャー席にどなりこんできた。
「人が怒鳴ったことなんか報告書に書くな!」「は・・・」
どうやら、昨夜ラウンジで大きな声を出したことが引継ぎに書かれていることを聞いたようだ。
すぐにHが頭を下げに来た。
「お前、何話したんだ。会社で話されていること、報告書なんかでまわっていることを□□さんに話しているだろ!」
「すみません」
「君は、あの人に注意を促すことで、ホテルとうまく付き合ってくださいよ。
ぐらいのつもりで言ったんだろうけど、あっちは、そう思わないよ。
このホテルで狙っているものがあるんだろうし、あまり目立ちたくないって・・・思っているよ。」
「すみませんでした」
Hと入れ替わりでU課長が入ってくる。
「注意したの?」
「ええ、でも、なぜ注意されたのか、わかっていない」「・・・」
「自分が口を滑らしたことで、迷惑をかけたアシマネに悪く思われたくないってとこでしょ」
「そう・・・今度私から言いましょう」
ありがたい、本当に説得力あるからな。
それにしても・・・それにしてもお客様との程よい付き合いが分からないとろくなことがない。

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