第九章 後半 :暴力団のお祝い事


第九章 後半 :暴力団のお祝い事
特別連載企画
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

●話のネタ・・・でも笑えない
結局、この宴会については私が暴力団ということに気づかずに受注してしまった、
ということで安全管理室の記録に残っている。

顧客担当課長から「知らない」と返答されたときは、そうだろうな、と思いつつも
何かフォローしてくれてもいいだろうとも思った。
しかし、課長の受け答えは至極当然のものだろう。私が同じ立場だったらどうだろう。
情にほだされて「ああ、知っているよ。国会議員の□□先生の紹介だよ」と、警察の人間に話したらどうなるか?
これは勝手な推測だが、その国会議員の先生にしても、暴力団の幹部から直接依頼を受けたわけではあるまい。
第3者を通じて依頼があったのだろう。
それにしても、学校名、病院名での参事、理事といった名刺には気をつけなければいけない。
そこでしっかり勤務している人はともかく、常勤でない人は、何をやっているのかわからない。
ちなみに、このときのことは、よく話のネタにさせていただいている。
すなわち「病院の方だから出るって聞いて、てっきり退院と思ったわけよ。
それで『お出になるんですね』って聞いて・・・まちがっていないよね、相手はうなずくわけだ。
出てきたのは間違いないけど、刑務所だもんね。」一応受けるが、硬い人間には冷たい視線を浴びる。
もう一件。この件以来結構慎重になった。そんなわけで
「椿さん、婚礼のご相談いいですか?」「いいよ」(あっさりと)
「どちら?」「あちらのお客様です」「あちらって・・・」示されたお客様は男二人。
それも高齢の方だ。

なんとなく、あの暴力団のお客様と雰囲気が似ている。
一人は目つきギョロっとピエール瀧風。もう一人は痩せて心を見透かされるような感じだ。
この二人が親か、でもちょっと違う感じだ。
「おめでとうございます」と名刺を交換すると、埼玉県K市の不動産業者社長とK市の市長だった。

人を見る目なんてこんなものだ。社長は指にきらびやかな指輪をいくつもはめており、声はでかい。
どう考えても披露宴の相談に来たとは思えない感じだったが、ご子息、長男の披露宴の相談だった。
披露宴と言っても、当時よくあったご自身の会社のお得意様をお招きしての披露パーティーというものだ。

「来てくれるお客さんに、退屈な想いさせるわけにはいかないからな」と、あれこれ出し物を組み込んでくる。
「何時間もかけて食事というわけにもいきませんし・・・」
「どんどん飲ませりゃいいだろう」挙句の果てに、
個人的な知己のある「小松みどり」のショータイムを設けるに至った。

おかげで当日「小松みどりショーは何時からあるの?」なんて問い合わせまであった。脱線してしまった。
よくこういった接客の業務をやっていれば、怪しい客かそうでないか気づくものだ、と言われる。
でもそう簡単に判断できるものではない。
人間の思考回路というのは、思い込みとか予備知識で占められることがある。
だから、上司の紹介、知人がいる、ということでこれは大丈夫と思い込んでしまう。
まして交換した名刺がしっかりとしたところであれば、疑うこともなく、受注してしまう。
もし、暴力団等好ましくない物件は受注しないことという緘口令が敷かれ、
ペナルティーが科せられたら、怪しいと思ったものは無理しないに限る。
その判断基準は坊主頭、ひげ、細面に吊り上がった目、要は人相によって感じる勘だ。
だが勘に頼りすぎると、いい客を逃したり、苦情を招くこともある。

暴力団排除条例の広がりにより、ホテルなどの施設を暴力団が利用することは少なくなった。
それでも、似非同和や言葉尻をとらえては言いがかりを言ってくる人たちは存在する。
執拗に電話をしてきたり、声色を変えて、巧みに金品を要求してくる。
「わかりました」と言って、収めるのは楽だが、それで済まない。甘い判断は後々まで禍根を招く。
利用規定、約款などに明記し、対応は複数名。きちんと断るようにしなければならない。
大事なことは接客担当者レベルだけでなく、会社全体で取り組み、方針を明確にすることだ。
「どうして泊めたんだ」と言ったかと思えば、
苦情になって「どうして断ったんだ」とスタッフ個人を責めぬよう、基準をわかるようにすることだ。

ところでこのときの婚礼のお客様。出席者300名程度。衣装代除いて2000万程度。いい物件だった。
ご子息は親父とは全く異なる好青年。ちなみに次男も派手に披露宴を行った。
私のお客様を見る目、これについてははなはだ心もとない。



コメントをどうぞ

Spam Protection by WP-SpamFree

▲ページの先頭へ戻る