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第十三章 前半 :安全という商品


第十三章 前半 :安全という商品
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特別連載企画
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る

●この商売は安全という信頼感から

ホテルが提供する商品とは、ご存知の通り
「宿泊」「レストランでの飲食」「宴会場でのパーティー、会合」が中心であるが、
それ以外にテナントでの買物、飲食、引き出物などの手配などもある。
安くはないこれらの商品を購入する理由の一つに安心感、安全性というものがある。
ホテルなら大丈夫、間違いないと信頼を寄せる何かがある。

たとえば、ホテルで披露宴を挙げるとき、一般的に衛生面はしっかりしていると認識される。
セイフティボックスもあるし、盗難などの心配も少ない、
それに保安関係のスタッフもいて、何かあっても対応してくれる。
目に見えないものだけど、このセキュリティー体制が整備されていることがホテルの特色であり、
裏をかえせばこれが備わってなければ、ホテルとしては評価されない。
スプリンクラーは備わっているか
防火扉の設備はあるか
非常口はしっかり目につくか
こんなことをホテルに泊まる時、確認してみるといい。
さて27年あまりホテルニューオータニに在籍したが、
この間私が覚えているだけで、3度食中毒が発生し、2度火災が起きた。

●食中毒編

その日はフロント業務の夜勤明けだった。会社の後輩の披露宴。
私は司会、と酔う要素は十分そろっていた。私はグラス2杯のビールで顔が赤くなる。
この程度で赤くなるのも恥ずかしいので、赤い顔はするけど、酒は強いんだとばかり、しっかり飲んでしまう。
そんなわけで、翌日、体調を崩した。幸い公休だったが、何度も下痢でトイレに足を運んだ。
「30代後半になると、体も弱くなるな」と実感する。
翌日、体調はあまり芳しくない。しかし、芳しくないのは会社そのものだった。
同僚から「椿さん、昨日大丈夫でした?」と尋ねられる。「大丈夫って?」
「食中毒の申し出が続いたようでさ。それが、彼の披露宴のお客さんもいたようで・・・」
「まだ原因もわからないんだろうけど、自分の会社で披露宴やって、食中毒って・・・まずは自分の検査をしなきゃ」
検査結果・・・腸炎ビブリオ。食中毒。原因はオードブルのホタテ。
同様の料理が3会場に供され、列席者は250名に及ぶ。ホテルは急遽事務局を作り、対応策を講じる。対応策は以下の通り。
対象は該当する披露宴出席者全員
ホテルは被害者全員に、お見舞いとしてお見舞金と粗品をご自宅に届ける
お見舞金はその症状(医療機関への通院回数など)より3段階とする
お見舞の対象者は100名あまり
発生場所のタワーオードブルの調理場は1週間営業停止。
どうやら指に怪我をしているスタッフが調理したようだ。
これくらいならと思いがちだが、指先に怪我をしている時は人の料理を作るのはご法度だ。
このニュースは保健所に経過報告を出した段階で、公のものとなり、新聞、テレビのニュースで流れる。
事務局は、被害に遭った両家に結果報告に赴く。
ただし、新郎新婦は新婚旅行中。両親に検査の結果を伝え、お詫び。
さて、私はといえば1週間もしないうちに菌は体内からなくなったが、
気分的なものか体調崩した後遺症か、腸は弱っていった。
「椿、大丈夫?」「はい、もうすっかり」といいながら元気はない。にも拘わらず、お見舞要員となっている。
行先、小田急沿線。「結構遠くて、のんびりいけるな」とほくそ笑んでいたが、
実際に行くと、駅から20分、緊張感もあったろう、お腹がゴロゴロなりだした。
お見舞に伺いながら思わず「私も食中毒になりました」と言いそうになった。
この時もそうだが、同じものを食しても食中毒になる人、ならない人がいる。
その時の健康状態やその人の体質にもよる。
このような披露宴やパーティーのように食した人が多ければ複数の方が災禍にかかるので、おおよそ検討もつく。
しかしレストランで食事を摂ったお客様の内一人だけ「食中毒のような症状が出た」と申し出があったら、どうだろう?
うちの商品に限ってそんなことはない、とまず思うのではないだろうか?
私がアシスタントマネージャーの職に就いていた時、一度食中毒があった。
ステーキハウス、当日のディナー利用3組6名。そのうちの一組、女性2名の利用。
翌日帰りの飛行機内で症状出る。家についてから同行した友人に連絡すると、同じ症状とのこと。
3日間苦しむ。ようやく動けるようになり、病院で検査。「食中毒」。その状況を記してきた。
発症の前日、当日とも他所での飲食なし。なお、このお客様以外からの連絡はなし。
安全管理室衛生担当に連絡。ステーキハウスのキッチン、サラダバーのコーナーなど調査。
食中毒はレストランのサラダバーに多数サルモネラ菌を採取する。
「卵か肉に多数菌が付着。器にもいましたよ。
おそらくサラダを食べていたら、みなさん悪くなっているんじゃないかな」
「これはもう届け、出されたんですよね」
「ええ」
「他のお客様にも確認した方がいいですよね?」
「その方が親切でしょうね」
他のお客様には体調を崩された方はいなかった。というか、無頓着であったのかもしれない。
食中毒はその病原菌を口にした人が100%体調を崩すわけではない。
しかし、大丈夫と高を括ると、災禍は訪れる可能性は高い。
日常よりお客様の飲食にかかわるものを扱っているところは、清潔にし、利用しやすいよう整頓しておくことが大切だ。
また、体調が悪いという申し出があったら、医療機関に診てもらうよう薦めることが必要だ。
勢いよく「お宅で食べたモンで当たった」とか「食中毒だ」と迫られると、
お詫びを言いそうになるが、原因がわかるまで、むやみに謝らないこと。
披露宴に出られた方でゴネたお客様はいなかった。
披露宴主催者、すなわちご両家であるが、最終的には割引をしたと聞く。
ただし割引はさほど大きいものではなかったと記憶している。

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