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第十四章 ③:手数料って・・・ほら旅行業者に払っているものです


特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~


●旅行会社にも顧客はいるよ

これもゲストサービス支配人時代のこと。苦情は客室に関することだ。
女性のお客様からコメントレターが届いた。
内容は宿泊した折、空調の具合が悪く風邪をひいてしまった。
係の人に来ていただき、見てもらった。
その際、説明も受けたが、結局空調はよくなることはなく、またそのあとケアされなかった。
文面は穏やかだった。おそらく尋ねてみても、気が付いたことを記しただけです。
というコメントだけが返ってくるのだろう。
気にする必要はないかもしれない。だが、宿泊実績はかなり高い。
また予約先の八戸の旅行会社の重要顧客のようである。
お客様に連絡をしてお詫びを申し上げる。
その上で体調、ご様子を伺い、その時の状況を聞かせていただく。
全然怒っていない。ニューオータニを気に入ってくれているし、今後も・・・それはわからない。
予約先の旅行会社担当者に連絡。経緯をお伝えする。東京へは1,2か月に1度ビジネスで上京する。
電車であったり、車であったり。時には会食しながらビジネス、ということもあるようだ。
「部長、八戸に行ってきてもいいですか?」
「いいよ」
私のやることに「NO」は言わない。思っているようにやりなさい、って感じだ。
その代わり苦情処理、交渉事は全くやらない。それが徹底しているからやりやすいことは事実だ。
「今回、どうしても行かなきゃいけないような苦情じゃないんですけど・・・」
「いや、行くと判断したんだから、それなりの理由はあるんでしょ」
たしかに、クラブ会員を勧めること。レストラン、宴会場の案内。それに旅行代理店への挨拶。
そんな理由づけが頭に浮かんだが、
当時東北新幹線の終着駅、八戸に足を運びたいというのが最大の理由だったかもしれない。
八戸駅の改札を抜け、旅行会社店舗前に行く。ここで待ち合わせをしている。
さほど時間を経ずお客様は姿を現した。しばらく話をして、旅行会社の店内に入る。
にこやかな顔をした男性スタッフが近づいてくる。
この方が電話でお話したいつも手配している方だな。
「来週、また東京行くんだけど・・・」
「だったら、オータニさんにお世話になればいいじゃない」
「どうしよう?」
「どうしようも、こうしようもないでしょう、こうしていらっしゃっているのに」
あっけらかんと話してくれることがありがたかった。
お客様も誰かが気持ちを後押ししてくれることを望んでいたのかもしれない。
以降、定期的に宿泊することになり、宴会場を利用してくれることもあった。
私がアシスタントマネージャーになって1,2度お目にかかったが、その後の利用状況は把握していない。
「オータニクラブの会員になるっていいじゃないですか。
私たち、個人のお客様のコミッションで儲けようなんて思っていませんよ。
それより大事なお客様が気に入ったホテルと出会って、大切にされることが何よりですよ。」
東京に帰って、旅行会社の方にお礼の連絡をしたら、こんなことを言われた。
八戸駅は以前来てから30年近い歳月が過ぎた。
目の前に広がるこの駅は高い天井、少し不似合いな都会的デザイン。でも人は変わらないよな。
●さて団体旅行の添乗員のこと
この章は旅行会社の業務内容に沿って書いているので、長くなってしまった。あとひとつ。
昔は旅行会社の主要業務だった添乗員。この業務は大変だ。
乗車時の点呼、停車地、観光地の説明ばかりじゃない。非常事態が起きることもある。
これはアシスタントマネージャーの時、2004年5月中旬の話。
あの一行は長野・諏訪地方からのグループ。
1日目、都内観光、2日目、歌舞伎座市川團十郎襲名披露。陽気も蒸し暑くなってきた頃。
冬に交換したロビーや宴会場階のカーペットが水分を含むようになって、
たるみができるようになってきた。摺り足で歩くような人はつまずきかねない。
このようにたるみが出て波打ってくると、いつ転倒してけが人がでるかわからない。
静電気防止のためというが、こんなに水分を含んでしまうものと認識していたのか?
グループのお客様は年配の女性中心だ。
事故はチェックアウトをし、バスに乗るため、このカーペットの上を歩いている時に起きた。
出勤時、エレベーターに乗って事務所に向かうとき、施設管理部長から声をかけられる。
「すごい勢いで転倒していましたね」
(何のことだろう)事務所に入る。夜勤明けのスタッフに尋ねる。
「ベルキャプテンの方で対応してる」との返答。
「そう」(でも、違うだろ、職務上こちらで対応する案件だろ)
立ち会ったベルのスタッフに聞く。被害にあったのは70歳過ぎの女性。
カーペットのよれている部分につまずき、激しい勢いで転倒したが、
幸い接骨に詳しい人がいて肩の応急処置をしている。
もし痛みがぶり返すようであれば、ベルデスクに連絡が入るとのこと。
「どうして、アシスタントマネージャーに委ねなかったの?」
「来てくれなかったんですよ」
(どうゆうことだ)
案の定、10時前にツアーコンダクターからベルデスクに電話が入る。
被害者の肩が痛み出した。ホテルで提携している病院に連絡を取ってほしいとのこと。
(そんなの無理だ、診察は順番になってしまう)
2,3の病院に連絡とるも、「順に診察します」との返答。
ベルデスクに「今度連絡きたら、こちらにまわすか、救急車の要請をしてもらってくれる?」いらだっていた。
本来アシスタントマネージャーがすべき業務をベルに委ねたスタッフ。
夜勤明けというのはわかる。でもこの先どうなるか考慮していない・・・
ベルデスクはツアーコンダクターの携帯電話の番号を聞き、私に教えてくれた。
連絡すると、この状況に怒っているのか、焦燥しているのか声を荒げている。
「こちらで救急車の要請をするんですね?」
「お願いします。被害者の症状、現在地など聞かれますから。いいですか119ですよ」
おそらく骨折か脱臼か・・・重症であることは間違いない。
当社の営業担当北関東営業所にはフロントから連絡をしてもらう。
その担当者から昼過ぎに連絡が入る。
ツアーコンダクターから連絡があったようで、被害にあったお客様は骨折。
ホテルとしてどう対応するか検討してくれとのこと。
いずれにしても、ツアーコンダクターに連絡をとり、状況を確認しなければならない。
被害に遭ったお客様は、添乗員同行で上諏訪に向かっているという。
私は今回の件については、カーペットの問題を抜きにしても、対応が不十分であったと思っていた。
しかるべき担当者が臨場せず、現場のスタッフがいつもと変わらず見送ったこと。
怪我に対する配慮がなかったこと。
総支配人に報告する。
「お見舞に行ってきてくれる」
「それはいいんですが、怪我をされるたびにお見舞に伺えばいいのでしょうか?」
「どういうこと?」
「ご存知の通り、あのカーペットは湿気が多くなれば、たるんできます。
 今でもあれだけ波打っていますから、この先年配の方が躓くことは・・・」
「そうだよな」
「今回のお客様は無理難題、ふっかけたりしてはこないでしょうけど・・・」
「どういう相手が何言ってくるかわからないか?」
「はい」
「大丈夫、もう施設に手配しているから」
「なんだ」
今回の一件は、すべてその非はホテルにある。
お客様の不注意、突発的な要因によるものではない。よって医療費などホテル側が負う。
翌日、営業担当者と上諏訪に向かう。被害に遭われたお客様とは前日話した。
年齢はすでに80歳を過ぎていた。そんな高齢者にはハードだが、この日15時に入院するという。
おそらく入院したらすぐに手術だろう。左肩骨折。
ご自宅にいらっしゃるうちに今回の治療費についてはすべてホテルで看させていただくこと、
退院後の通院についても考えなければならない。
「いや、年取って足が思うように動かんから、こんなことになったけ・・・」
「いえ、明らかに絨毯が波打っていて、非常に危険な状態にありました」
こんな問答を繰り返していた。お嫁さんが「お言葉に甘えさせていただきます」と
言ってくれなければいつまでもこんな問答を続けていたかもしれない。
一通り説明をし、その場を辞し、駅前にある今回のツアーの主催旅行会社に行く。
「わざわざ来ていただいて・・・」ツアーの担当者はちょうどいた。
「あの時は電話で失礼な言い方をしてしまい・・・」人のよさそうな若いスタッフだ。
今回のクライアント、簡保組合の事務局まで案内してくれた。
こんなとき、旅行会社とクライアントがいい関係であると、いろいろなことがスムーズに運ぶ。
旅行会社も経費削減のあおりを受け、店舗縮小、人員削減となると、どこかでひずみが出る。
7月に入った。お客様は数日前に退院され、元気になっていることをうかがっていた。
今回の訪問は、改めてご様子を確認すること。
そしてこの先ホテルはどこまで医療費の負担をするか、ということをお話にきた。
というのが目的であった。治療に関する保険の範囲というのは複雑だ。
まだ痛みがある、自由にならないといっても、手術をし退院すれば、治癒したと判断されることが多い。
その場合、退院後は適用外ということが考えられる。
今回の場合、病院を退院するまで、もしかしたら数か月先の診察の分まで適用となるかもしれない。
定かではない。お話をしながら、その期間を考えていた。
そんな私の心中を察してくれたのか?自らこれ以上ホテル側に負担をかけたくないと申し出てくれた。
「もう大丈夫だと。」
窓の外はすっかり暗くなっている。ご署名、ご捺印をいただいた書類を見ながら、ホッとしてはいた。
ホテルとしてここまでは面倒看ます、と打ち切りを伝えるようなこの交渉は
相手の気持ちをないがしろにする感じでたまらない。
当然のことだが、お客様もいい気はしない。
それに・・・このお客様はご高齢だし、いつ痛みを覚えるか不安だ。
「何かあったら遠慮なくお申し出くださいね」とはお伝えして、帰路につく。
帰りがけにご面倒をかけた旅行会社に立ち寄る。
「ここも来年クローズなんですよ」「クローズって」店舗はどんどん統合されていく。

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