Category カテゴリー

第十五章 後半 :ホテルは日常の延長・・・怪我の危険だって


特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~


●怪我をしたお客様の対応は苦手です

実はホテルで怪我をした、病気になったというお客様の対応は苦手だ。
実際、対応が悪いと名指しで苦情になったこともある。当然、示談交渉は苦手だ。
アシスタントマネージャーの時の話。施設不備の事故が結構起きていた頃である。
私が休みの日に事故は起きた。

自動ドアのセンサーがきちんと人をキャッチできない。
よって、開閉が早かったり、遅かったり。お客様は連れの方と談笑しながら、ドアにさしかかる。
通常であれば、開いたままであるのに、目の前で自動ドアは閉じてしまい、お客様は転倒。腰を強打。
アシスタントマネージャー臨場。状況を確認。
施設関係者に自動ドア点検させ、お客様はタクシーにていつも通院している医療機関へ。
自動ドアの不具合は明確「交通費を含め治療費はホテルで持つ」とお伝えする。
被害に遭われたお客様70歳前後女性。
翌日、出勤して話を聞く。
「では連絡をして、お見舞に伺います。」とはいえ、施設不備による事故とお客様には伝わっている。
ご挨拶をして、丁寧に今後を見守るだけだ。ただひっかかるものがあった。
いくらセンサーの具合が悪いといっても、閉まっているドアにぶつかるか・・・
もちろん責任の所在は我々ホテルにある。しかし、100%か。今となってはなんとも言えないが。
非常に穏やかな方だった。いきなり扉が閉まってびっくりしたと言いながら、ホテルの非を責めることはない。
腰を打ったというが、痛みは背中から首にまで及ぶ。
裏を返せば高齢の影響によって直接打った個所だけでなく、体全体が痛むのだろう。
勝手な推測だが、さほど時間を要することなく「もう大丈夫」という言葉をいただけるものと思っていた。
東京都下の、このご自宅をこの後何度訪ねたか?
しかし半年経ち、1年経ってもそのような言葉を耳にすることはなかった。
ストレッチなどして筋肉を強くすること、姿勢を正して骨を正すこと、
このようなことをせず、ただご自宅で休んでいたから「よくなる」という感触にはなかなかなれなかったかもしれない。
2年ほど経過した。保険会社の窓口である総務からも
「自動ドアで怪我をしたお客様の件、どうなりました?」
「まだ病院に通っているんですよ」
「まだ!」(そう思うよな)
私自身の退職も近づいていた。在職中に処理したいという思いもあった。
改めてご自宅に伺い、ホテルは契約している保険会社の内容に沿って、
治療費を出しているということを改めて説明。
ホテルとしてはそろそろ打ち切る時期に入っているとお話する。
「どうでしょうか、ご検討いただけませんか?」
「わかりました。主人と相談して連絡します」
翌日、ご主人から電話。いきなり怒声。
「そちらの自動ドアの不備による事故だろ、それをなんだ、完治していないのに打ち切るだと・・・」
こりゃ駄目だ。
「わかりました。引き続き、病院で渡された領収書を送ってください」と答えるしかなかった。
怪我をされたお客様に「一般的」「通常は」という言葉はあてはまらない。
お客様それぞれ施設責任に対するイメージを持っている。
今回のお客様の場合、当時あった「港区エレベーター不備による高校生死亡事件」と同様のものと思っていたろう。
そんな危険なものを放置しているホテルの責任は重い。
完治、痛みがすっかりなくなるまで責任をもって対応するべき。
こうなると、そのお客様が「もう大丈夫」と思えるまで治療費を看るのが普通の対応と認識している。
こうなると、年齢からみて体調がよくなるには一生かもしれない。
事故が発生したのは、長野・諏訪のお客様の対応が終わり、しばらくしてからだった。
前章で書いたこの件は、お客様が「もう大丈夫」と治療費の継続を断ったところで終わっているが、
そのあともう一度お見舞、というか書類にご署名をいただきに伺っている。
この方は80歳という高齢にもかかわらず、家の仕事をしていた。
だから多少痛みが残っていても気にならない。
いやむしろ「面倒をみてもらうのは心苦しい」という気持ちがある。
だから、お見舞に対するお礼だろう、リンゴを送ってくれたりした。
3度目に伺ったとき、この80過ぎのお客様は私が帰るとき、家を出てきて、しばらく歩を並べた。
横断歩道のところで別れると、私の姿が駅舎に吸い込まれるまで、いつまでも立ち続けていたのだ。
そんな姿をみたら、こういうものだと思い込んでしまう。
すなわち、お客様は許してくれるものだ、と。しかし・・・それは違っていた。
問題に対する捉え方はそれぞれだ。
 
 

コメントをどうぞ

Spam Protection by WP-SpamFree

▲ページの先頭へ戻る