第七章 後半:お客様とは、ほどよく節度ある付き合いを

2017年12月21日 木曜日

特別連載企画 
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

●ごちそうになった産物
「説明お願いしますね」
「いやですよ、椿さん、当事者じゃないですか?」
「だから、判断、決定権はなし。必然的に、ね。」
宿泊部長の了解を得て、総支配人に説明に上がる。いい顔はしていなかったが、薄々感じてもいたのだろう。
「大丈夫なの?」と懸念をもっていることは現したが、後は何も言わなかった。
とりあえず、他のスタッフには伝えなかった。今回のことで、情報が簡単にもれることは痛感していた。
予約はいつも、宿泊する当日フロントH宛にかかってくる。
おおよその日は部屋の清掃のこともあり、チェックアウトの時に聞いている。
今回、電話がかかってきたら、私のほうに電話を回すことにしている。荷物は相当量の預かりがある。
メンバーに宿泊を断ることを伝えたのは、前日だったか、当日だったか。
「U課長、総支配人には悪いことをしてしまいました。」
「・・・」
「総支配人に面談させろ、って訳の分からないお客様に会って・・・頭下げて・・・」
「申し訳ないって思っているわけ?」
「そりゃそうでしょ、結局 宿泊断るんだから」
「椿さん、それがGMの仕事ですよ。状況を把握していなくたって、お詫びしなきゃいけないし、
何かあったらその場に行って、指揮しなきゃいけないって・・・。
あの人、それわかっているんだろうけど、いやな顔はしていましたね」
そうだろうな。と、宿泊部長から「一枚岩になって対応しましょう」と言われる。
その日6時頃、お客様から電話が入る。私のところに電話がまわったので変な感じは抱いたことだろう。
そして思いもよらず「提供する部屋はない」と言われたのだから、腹も立ったろう。
いままであれだけ利用しているのに、この仕打ちはどういうことだ
「預けている荷物をまとめたいんだ。今日一日でいいから・・・」
「あいにく本日一泊でもご提供できません」
預かっている荷物はビデオ類で無用の長物であることは理解している。
泊まれば、延長、延長となるのは明白だこの後、フロントのHにも電話があったようだ。
断ったら、「ごちそうになるときは、調子のいいことを言うくせに、こんな時には何もしてくれない」
と強く言われたようだ。
結局、ニューオータニの向いにあるホテルに宿泊することになったようだ。
預かっていた荷物はYがお客様と連絡を取り、返却した。 

この件で、思うことはいくつもある。
でも何と言ってもU課長が宿泊部に復帰したことにつきる。
「お前じゃだめだ」と言われても、フォローしてくれる人がいる。
後ろ盾があるということはどれほど心強いことか。

「苦情処理は君のところが担当だね」
「問題が発生したとき、お会いしているんだったらちょうどいい。お詫びに行ってきてくれる」
上司からこんな言葉を言われたことがある。
難しい状況になった、協力がほしい、と望むものに限って、委ねられることがある。
人を変え、場所を変え、というのは苦情処理の一つの手段だがいつでもオレが変わるぞ、という姿勢は本当に心強い。
その気持ちだけで問題はクリアーできるものである。
スタッフがお客様と親しくすることに、とやかく言うつもりはない。
ただ、食事を共にすると、必要以上にそのお客様に「いい話」「甘い話」をしてしまう。
それが、人事のことや教育体制のことにおよび、
「言ってくださいよ」「いっしょに変えましょう」なんて言葉も発しかねない。

まず仕事の話はするな、世間話に努めろ、だ。
そして仕事の話になっても、人の話はするな、自分の人生を語れ、だ。
これは勝手な推測だが、このお客様との食事の席で彼らスタッフは、
「ホテルのランクを上げる、そのためにはスタッフの質を・・・」とか
「上がこんなふうに変わったら」とか人事の希望を口にしたのではないか?
そんな話が盛り上がるから・・・そう考えると、あのお客様も触発され、
いいところ見せようと思いたったような気がしないでもない。
この件があった数日後、あの不気味なお客様がアシスタントマネージャー席にどなりこんできた。
「人が怒鳴ったことなんか報告書に書くな!」「は・・・」
どうやら、昨夜ラウンジで大きな声を出したことが引継ぎに書かれていることを聞いたようだ。
すぐにHが頭を下げに来た。
「お前、何話したんだ。会社で話されていること、報告書なんかでまわっていることを□□さんに話しているだろ!」
「すみません」
「君は、あの人に注意を促すことで、ホテルとうまく付き合ってくださいよ。
ぐらいのつもりで言ったんだろうけど、あっちは、そう思わないよ。
このホテルで狙っているものがあるんだろうし、あまり目立ちたくないって・・・思っているよ。」
「すみませんでした」
Hと入れ替わりでU課長が入ってくる。
「注意したの?」
「ええ、でも、なぜ注意されたのか、わかっていない」「・・・」
「自分が口を滑らしたことで、迷惑をかけたアシマネに悪く思われたくないってとこでしょ」
「そう・・・今度私から言いましょう」
ありがたい、本当に説得力あるからな。
それにしても・・・それにしてもお客様との程よい付き合いが分からないとろくなことがない。

第七章 前半 :お客様とは、ほどよく節度ある付き合いを

2017年12月21日 木曜日

特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~
fだ
韓国から来たプレスリー
お客様がこのホテルを気に入ってくれて、「ありがとう、お世話になった」
「快適だった。また利用する」とお礼の言葉を投げかけてくれることがある。
限られた時間しかお客様と接する機会のない現場のスタッフにとって、何よりの励みになるものだ。
まして、再度利用いただき「おなじみ」「顧客」になっていけば、その自信、喜びは計り知れない。

平成15年、急に1週間10日単位で利用する韓国人が現れた、
そのいで立ちは「エルビス・オン・ステージ」のエルビスそのもの。
「サスピシャスマインド」でも流したら腕を回しそうな感じだった。
日本語は100パーセントと言わないまでも、しっかり話す。
出身高校は日比谷高校、それも学校群制度の前というが、年齢から言って合わない。
建築のデザイナーをやっているそうだがビジネスで尋ねてくる人はいないし作業しているとも思えない。
当ホテルにいないときに仕事をしているのだろうか。ところが滞在期間が長くなってきた。
一ヵ月の内2,3日を除いて宿泊するようになっていた。

当時、私はまだゲストサービス課支配人。
宿泊部のミーティングでこのお客様の話題がちらほらでるようになっていた。
「支払いは?」
「ステートメント出すと、きちんと・・・」
「個人?」
「そう」
「予約は誰かの紹介?」
「いや、本人から当日予約」
「今回一ヵ月ぐらいの滞在だけど・・・いいの、長期で?」
「実績から考えて、支払い等問題なし、承認した」

そりゃ認めちゃうよな。でも、部屋に伺うスタッフは必ず話しかけられ、他の要件を依頼される。
しだいに対応できるスタッフも限られてくる。
「椿さん、どうもあのお客さん、フロントやベルのスタッフを誘って飲みに行っているようです」
メインの客室係長からの進言があった。
「ホントー、いいなあ」
「支配人、何言ってんですか・・・」「・・・」
「それで、うちのYもどうやら・・・」「かなりスタッフに入り込んでいるみたいだね」
「ちょっと、聞いていただけますか?」「いいよ、オレも誘えってな・・・」
「・・・」

聞いてみた。フロント、ベル数名のスタッフがそのお客様と懇意にしているようだ。
話をしてみると知識があり、勉強になるとのこと。

「支払いは?」
「結構ごちそうになっている。」
「スタッフの話なんかもするの?」
「少し、あ 支配人のことは悪く言ってないです」(当たり前だ)

どうやら売り上げにもなるし、これだけ利用している顧客だから、
機嫌を損ねないように対応しているというのは容易に察しがつく。売り上げに貢献している。そう自負している。
 
そして騒ぎ出した
翌年、私はホスピタリティリレーションズに異動。
このお客様はすっかりホテルの顧客になっている。
宿泊は2,3か月単位で利用、フロントのH係長扱い。目に映る姿は相変わらず、プレスリーだ。
ロビーでも異様だ。場違いだ。当ホテルを利用しだして一年あまり経過した11月。
ちょっとしたことから、このお客様が騒ぎ出す。
客室のスタッフが客室の清掃の有無を尋ねた。本人は依頼したつもり。
スタッフは不要と認識した。日本語の曖昧なやり取りを確認しなかった。
お客様は長期の利用とはいえ韓国の方だ。
部屋に戻ってきて、清掃ができていないのを知り激怒。「責任者を呼べ」係長、部屋に伺いお詫び。
ところが「どっちの言うことを信じる?」の問いかけに「スタッフです」と返答してしまう。
いろいろやり取りはあったろう。でも、これ言っちゃだめだよ。
「ホテルで偉いやつを呼べ」副総支配人代行臨場。
しかし相手は総支配人との面談を希望している。それ以外は頭下げられても納得しない。
ホテルで決定権のある人間に認めてもらいたいのだ。この日はここまで。
この日休みだった私は、翌日副総支配人代行から話を聞く。
「今日も、総支配人に会わせろって言ってきますよ」
「会わせるほどのことか?オレがお詫びしてんだよ」

 どうもホテルの組織のことを耳に入れている気がする。
本当に何か変えるには総支配人に話さなきゃダメって・・・誰かから聞いているんじゃないか。
「今回の件、総支配人に会わせたら、お前ら何やってんだって思われますよね・・・」
「・・・」「でも、サッカーの試合見ていても、韓国ってボール持ったら中央突破しますね」
「するな」「あの人もそんな面、あるような気がするんですよ」
「直進して来るってか」「ええ、目標に向かって・・・」

ご丁寧にこのお客様はフロントに総支配人との面会状を提出する。
正直どうでもいいと思っていた。面倒だというのが偽らざる気持ち。
セッティングしなきゃ、いつまでも威圧してくるだろうし、
会えば自分は特別顧客として総支配人のお墨付きを求めるだろう。
曰く「このホテルが本当に1流のホテルか私が確認する。そのためにお手伝いしたい。
自分は韓国でもホテル開業の準備をしている。」なんて言ってくるんだろうな。

この日、結局フロントのHに乞われ、このお客様とティールームでお会いした。
改めて今回の件で、総支配人は面談するつもりはない。私の方から報告申し上げ、
今後このようなことがないように徹底すると申し上げた。
納得したようなしないような、いずれにしてもこの日はこれで散会となった。

翌日、昼頃にやはり電話が入った。前日の対応では納得していない。
出てくる言葉は「総支配人とはいつ会える?」のフレーズだ。それに対する私の言葉も決まっている。

(お会いする予定はございません。私がうかがいます)エスカレートし、声は大きくなる。
「アンタじゃ役不足だ。」
「会わせないんだったら、俺は腹を切る」(幕末の勤王志士か・・・)「アンタはもういいよ」

この後、電話をかけまくったのだろう?宿泊部長から電話がかかってきた。
「あのお客さんから電話かかってきたようだけど、会議資料作っているんで、よろしく」「・・・」
結局、話をするのは昨日と同じフロントのHと私だ。
フロントの統括支配人も私と同年齢の課長も異動して、相談する人間もいない。

「あそこで腹を切るからな」
「そんな刃物もっているんですか?」
「はさみでも切れるだろ」「痛いですよ」
「・・・駐車場の入口の外で・・・あそこなら営業妨害にならないだろう」
「それでも銃刀法違反か何かにひっかかるんじゃないですか?」

これは説得にならない。
「椿さん」「ん」Hに声をかけられる。
「あれ、本当にやるかもしれないですよ」「そうだな」
「GMに話しましょうよ」「それしかないか・・・だけど、そうなるとそのあと、あの人何を言い出すか?」

会えば、総支配人は頭を下げる。
お客様が要求するのは、料金か、対応か、いやホテルのスタッフと話をしている・・・要求は違うな
どんな話し合いが行われたのか、細かい内容はわからない。
2,30分の話し合いののち、言われたことは、「これからは、お客様とよく話して、しっかり対応して」という言葉であり、
お客様からは「アンタ、ちゃんと総支配人に報告しろよ」の一言だった。
そして、ほどなく、今回の問題のきっかけを作った客室係長は、タワーに移った。
さらに、このお客様は対応に問題があったスタッフを各部署の長を通して呼び出し、顛末書を書かせることになる。
おそらくホテルの質を上げるようにする、とでも売り込んだのだろう。
記入した顛末書は私がチェックして、総支配人へ届けるというルートになっていた。
こんなことがなんら通知もなく、無理強いさせられる。組織として、あまりに脆弱だ。

ホテルの人事の話をひとつ。私がかねてよりお世話になっていたUが宿泊部に復帰した。
旭川北高校を卒業しながら大学に行かず当社に入社。
マネジメントで正月プランを担当、その後リゾートの総支配人を務める。
その知識、理詰めの話、対お客様、スタッフ指導でも部長以上の才覚の持ち主。
ただし私より8歳上、本社での役職課長、つまり今後出世の見込み、ラインに乗ることは無い。
そして総支配人とは合わないと思いこんでいる。

別のお客様の話をひとつ。
黒いスーツを身にまとい、アタシュケースをもつ不気味な連中をよくロビーで見るようになった。
金のためなら何でもするって感じだ。彼らのボスは土地の買収をやっているのか、
いずれにしてもまともじゃないのは一目でわかる。
さほど、宿泊はしていないようだが、ティールームによく顔を出しては、怪しい雰囲気を出している。
韓国のお客様は我が物顔で泊まっている。
顛末書を書かされるスタッフもあきらめか、楽しんでいるのか「わかりました」と嫌な顔ひとつしない。
そんなある日、フロントのベテラン女性スタッフがメッセージを間違えて伝えてしまった。
すぐに大きな声で怒鳴る。
「あんなでかい声じゃなくてもいいだろうが・・・」
「アピールしてるんでしょ」フロントのベテラン係長が平身低頭、一生懸命謝っている。
「椿さん、駄目だ、納得しない」
「どうしろって?」

呼ばれる。それにしてもひどい。もうホテルは自分の言いなり、総支配人のお墨付きだぞと水戸黄門のようになっている。
エルビスの印籠でも用意するか?

「こいつは駄目だ、フロントから異動させろ」(きたきたきた)
「そう思うだろ、お客に迷惑をかける」
「〇〇さん、お怒りはごもっともですが、人事につきましては、ホテル側にお任せいただけませんか・・・」
憤怒の形相、「なんだ、この野郎」と言って席を立つ。
よほど腹が立ったのかボールペンを忘れていったので急いで持っていく。
よく聞き取れなかったが、「なんだ、今頃」とか大声で言っていた。
あまりに怖い声だったので、ロビーにいた幼い子が泣き出す。一体何なの、と周囲の人から私がにらまれる。
アシスタントマネージャー席に戻ると、宿泊部長がいた。
「丁寧にお詫びして、詫び状書けばいいんだよ」(なんじゃそりゃ)。
U課長が近づいてくる。

「しばらく離れているうちにずいぶんうるさいロビーになったね」
「ひどくなったでしょ。これじゃお客様もいなくなりますよ」
二人の考えは一致していた。
こんなふうに異動を言い出し、自分の意に添わなければ、あたりかまわず大声を発する。他のお客様はどう思うか?
この頃、お客様のおしゃべりの相手をしていたのは客室支配人。騒ぎの翌日、その支配人から電話が入った。
「椿さん、時間あります?〇〇さん、呼んでいるんですけど・・・」
(早速、顛末書か?)部屋に伺うと、「おお」という言葉から始まった会話。
時折声は大きくなるが、比較的穏やかだった。
要は「彼女に注意を促すために、ああいう言動に出ただけで、異動云々は権限あるわけじゃない。
あとでアンタと手打ちと思っていたのに・・・女の前でいいカッコしやがって」ということだった。
「そりゃそうですよ、スタッフはみんな客室の一件以来、疑心暗鬼になっていますから」
(通じない、疑心暗鬼が理解できないようだ)それにしても、よくこんなふうに考えてくるものだ。
U課長と状況を確認する。あのお客様と飲食を共にしているのは、
H,Yの他フロントやベルの支配人も、それ以外は若いスタッフ。

「脇が甘いな。」「お客様と食事を共にすることになんとも思っていないんでしょ。」
「要は話す内容だ。ツラ合わせてりゃ、彼がどうの、彼女がどうだって、そんな話になる。」

今度チェックアウトするのは、ゴールデンウィーク前。戻ってくるのは、ゴールデンウィーク明け。
予約はまだ入っていない。
「断るんだったら、この時だね、どうする?」
「これ以上こんな情けない状態を続けられないですよ。」
「でも、総支配人がなあ・・・」
「何かあるんですか?」
「いや、スタッフの教育、頼むって頭下げたらしいよ。」
「そんな密室の話まで・・・ああ、流れますね」

第六章 後半 :自分を伝えること語ることに慣れておこう

2017年12月15日 金曜日

特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

生徒からの自己紹介が終わると私はひとつ、ふたつ尋ねてみる。
学術的なことじゃない。いま、関心のあることや故郷のことだ。
学生たちの出身地は当然、地元群馬が多かったが、隣接する長野、埼玉、新潟さらには山形出身もいた。

「群馬県で誇れるものは?」と尋ねてみるが、これが出てこない。

1、上州は温泉のメッカだろうが・・・上州八湯八湖とかいって、湖や池のそばに温泉がある。
それでなくても、草津、伊香保、水上と名だたる温泉が連なる。けっこう名湯が多いところだ。

2、「食べるもので何かないか?」「山の中だからおいしいもんないし」
日本三大うどんの「水沢うどん」があるだろう。食材としてはこんにゃくにねぎがあるだろうに。
「そうだ、Haradaのラスクがあります。」―たしかにこれはおいしい。

3、講師を始めて2年たった時に「富岡製糸場」が「世界遺産」に認定された。
こりゃ誇りとして言う人間もいるだろう、と思ったが皆無。

地元の時事情報にはアンテナを張っておくこと。
今年、群馬の企業なら、採用試験でなんらかの形式で出題するよ。

自己紹介といっても、自分を授業で語る術を知らない。
この大学で何を学び、どんな職に就きたいか明確にはもっていない。
中には「ブライダル総論が楽しみです」なんて、言ってくれる学生もいたがもちろん社交辞令である。
多くは名前を言い、絞り出すようにどんな職種を考えているかを口にしていた。

「我々は人生の中で、誰でも何度か周囲から注目される主人公になるときがあるね?わかる?」

「・・・入学式とか?」

「誰からも祝福され主人公になる。入学式や卒業式はその人だけじゃないね・・・まず生まれてきた日。
そして人生を全うした日、葬儀のときを含めてね。」

「あとは結婚?」

「そう、誰からも祝福されて・・・休みだって胸張って取れる。
それに、それに我々の記憶にあるのは、この結婚のときしかないんだ。
たしかにお祝い事や何か達成した時もそうだけど、誰でもそうなるわけじゃないね。」

だからこだわりをもつ。だから印象に残る楽しいものにしたい。
我儘になるのはある意味当然だろう。
婚礼という商品を提供する我々はいかにお客様の気持ちに沿うように説明しなければならないか。
婚礼のプランなんかを作るときはカップルの気持ちをグッと引き寄せるものを考えなければならない。

授業は教科書通りに進めるのではなく、2コマはグループに分けて、
婚礼プランを作成することに費やした。
高校を卒業したばかりの学生たちにとって、料金も演出も挙式の流れも理解していない。
単なる遊びじゃないかといえばその通り、ただ婚礼という催事に関し、
やりたいことを追うだけで、何か興味は出てくる。
具体性は欠くものであっても、それでいいと思った。

ディズニーランドでやる。音楽は・・・、新郎とケーキを・・・。
出てくるものは点のものばかりで、連続性や流れがない。
挙式についても、奇抜なワンシーン的なもので、やるべきこと参列者のことは眼中にない。
だからプレゼンテーションにしても、単に遊びの報告みたいになる。

しかし、人前に出て、やりたいことを語ることが真の目的だ。
グループで同じ意見ばかりじゃないだろう。人の意見を聞いて、
それを理解すること、わからなければ問いただすこと。

勢いの強い人に仕切られることも多いだろうが、どのように意見をはすむか?
ブライダルの授業を通して自分の意見をしっかりと言えるようになることが大事だ。
授業の中でこんなものがあってもいいだろう。

「いいですかー、自分が生まれ育った県がどんなところで、どんな名所、名産があるか認識すること。
そして故郷を好きになることだな。自分の自己紹介も同じ、
好きな男性にはいいところを見せようとするだろう」

「自己紹介ってある意味、アピールだと思ってください。
だから、自分の特性、秀でている面、自分がやりたいことは何か、
それを実現するためには何をするか、実際何をしているか…。常日頃から意識して考えてみてください」

私がこの大学で講師をしていたのは4年間で、合計120名ほどの学生と出会った。

オリエンテーションのとき、こんなことばかりしていたから教科書の説明は常に抜けていた。
おかげで教科書を購入した生徒は4年間で0だった。
2年目に教科書を取り扱っている書店から連絡があったが、
その後も同じだったということは、さほど強い意識がなかったのだろう。
考えてみれば、異端であったのかもしれないな。

ただ、この授業を4年間受け持つことにより、
社会人になる彼女たちにひとつでも何か印象に残るものを残せていたらと願う。

第六章 前半 :自分を伝えること語ることに慣れておこう

2017年12月15日 金曜日

特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~ feedback-2990424_960_720

◆自分を伝えること語ることに慣れておこう
いつか教壇にたって、教えるということをしてみたいという気持ちがあった。
大学でも高校でもいい、しかしながら、教員免許を持っているわけでもなく、
経験した仕事も後々、経営学や心理学、語学のように授業科目として「教える」に相応しいものとはかけ離れたものだった。

私は27年あまり勤務したホテルニューオータニを51歳の時に退職した。
退職して4年が経過した冬に、忘れないでいてくれたのか、ニューオータニの人事課長から連絡があった。
内容を聞くと、大学で講師をやってみないかという内容だった。教科はと尋ねると「ブライダル」という。
ブライダルの業務はたしかに経験はあるが、それも12年も前のこと。
当時とはブライダルの傾向も変わっている。その市況も理解していなければ、
今後この業界がどのように展開していくか全くわからない。

高崎駅から上信電鉄に乗り換える。新幹線でいく高崎までの道のりは面白くもなんともないが、
このローカル電車はのんびりしている。
さほどスピードも出さないからS字クランクみたいなカーブを繰り返して進む。
高崎から三つ目の駅名もズバリ「高崎商科大学」。そこが非常勤講師としての勤務地だ。
4年制と2年制の短期大学からなるが、大学名の通り商業の単科大学だ。
私が受け持つのは、短期大学の「ブライダルビジネスコース」の1年生対象「ブライダル総論」。
半年間15回の90分授業が担当科目である。

「ブライダル総論」という授業名の通り、ブライダルの基礎、まさに入口の部分を講義する。
具体的には婚礼の歴史。世界の挙式。挙式の種類。
披露宴の内容などを、「ブライダル総論」という名の教科書に沿って進めていけばいいのだ。
しかし、18や19の女の子が「婿入り」とか「付文」なんかでピンとくるか。
ヒンズー教やイスラム教の婚礼に興味がわくか。

2年後には社会に出る彼女たちに何か印象に残るもの、
ほんの一言でもいい、一つの動きでもいい、そんなものに触れてもらいたいと思った。
それに、この大学は実学を学ぶことを旨とし、謳っている大学である。

私はかねがね学生から就職採用試験を経て社会人になるとき、心がけてもらいたいことがあった。
それは

1、きちんと自己紹介ができること
  名前、出身校はもちろん、自身が興味あるもの、惹かれるものを端的に言えること

2、説明するとき、キーになる言葉をしっかり表すこと
  たとえばプレゼンテーション、感想を述べるとき、自身が伝えたいことを明確に伝えること

3、人の意見をしっかり聞き、まとめていくこと
  人の話をきちんと聞き、それを反映するのは難しい。
  しかし、その言葉を反復したり、発言している人の顔を見ることは、安心感を与えるものである。

こんな意識がある。授業スケジュールだが、15回の講義のうち1回目はオリエンテーションである。
もちろん授業をどのように進めていくか、評価は何を基準にして判断するかを説明するのが主たる目的だが、
私の方は学生たちとざっくばらんに話をしたいという思いもあった。
今後の授業で思ったことを自由に言ってほしいし、
学生たちにとってどんなことが興味あることか知りたいと思っていた。
だからこのオリエンテーションでは、受講する学生に自己紹介をしてもらうのが常だった。

「名前と出身地、それとこの学部で何を学び、将来どんな仕事に就きたいか話してください」

「えーっ、まだわかんない」

そんなレベルだった。

「大丈夫、いま思っていることでいいよ」

第五章 後半 :苦情、指摘事項には速やかに連絡を

2017年11月30日 木曜日

特別連載企画
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

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●ひとりじゃ処理はできません
ホテルでのクレーム対応で、先方の住まい岡山へお詫びに出向いたものの、
予想通り、すっきり解決とはいかなかった。怒声も罵声もなくおだやかに2時間話したが、
用意した見舞金もお菓子も受け取ることはなかった。
遠慮してではなく、こんなもんじゃ納得しない、という意思表示だった。先方の要求内容を言うと、

1、 金銭ではなく、私自身の精神的ダメージを考えて対応してほしい。
2、 よって経営責任者である社長名での詫び状(保証)がなければ
        当社に対して安心できない、恐怖心がぬぐえない

とってつけたような理屈であるが、これが申し出事項。
ちなみに地元の名士とつながりも深く、いつも、エコノミークラスではない方法で、
東京を行き来している。東京へは仕事の関係で、赤坂、六本木によく来るとのこと。

翌日、総支配人に報告。

「社長名での手紙は駄目だよ」「ですよね・・・じゃ総支配人名で・・・」「う~ん」

この件は決裂するものと認識していた。となれば、幕引きのための確認事項がいくつかある。
安全管理室を通して、ホテルニューオータニの顧問弁護士にアポイントを取ってもらう。
一方、先方との連絡は続く。
社長名での詫び状を強く求めてきたが、総支配人名での名前で納得していただく。
筆耕に毛筆で書いていただいたが、文面はいたって平易であたりさわりのないものにした。
おそらく「私の意を汲んでいない」「具体的にどうするのか記されていない」など、
まちがいなく、クレームを言ってくるだろう。

弁護士事務所における確認事項
・たとえ羽田までの所要時間を誤って案内したとしても、
   乗るべき本人が事前に調べておくのが道理である。よってホテル側が負うべき責任はない。
・空港からの電話を受けた担当者の対応が悪く、精神的苦痛を受けた。これはあまりに不鮮明。
   宿泊代、クリーニング代、病院代等一切もつ必要なし。

ホテルの誠意は、私がお詫びに行ったことで十分。総支配人名での詫び状まで出すことなし

「ところで、椿さん、電話のやりとり録音してある?」

「はい、してあります。ちなみに岡山でお会いした時のもここに・・・聞きづらいですけど
   ちゃんととれています。JALの顧客で乗車していれば、すぐに挨拶してくれる。
東京には営業で頻繁に来るので、よく知っていると。ちゃんとはいっています。」

「では、先方が金品の要求をしたら、私共の方でやらせていただきます。」
おそらく社長名での詫び状、金銭等の要求を拒否すれば先方からは以前と同様に、
激しい口調での叱責が続くことになるだろう。
そして対応する相手となれば総支配人を要求するに違いない。
となれば、当社の方針までは伝え、それから先は弁護士に委ねるしかない。

「ではホテルは社長名での詫び状はお出しにならないということですね?」

「はい、お客様のご希望には沿いかねるという結論に至りました。」

「何度も申し上げているように、私は不安で、
 こうしていてもゆっくり休めない状態であるということがわからないのですか?」

「ホテルといたしましては、私が岡山まで伺い、陳謝の意はお伝えしたものと認識いたしております」
「そんなことで納得できません。私はあの日・・・」

この一連の出来事に関する金銭の要求をしてきた。よどみなく文句と金額をまくしたてる。
数字はかなり大きいがあらかじめ考えていたのか、項目は細かい。
最後に「よく考えてください」と言って、電話は切られた。
●思うこと
後日、弁護士事務所から先方に手紙発送。
今後、当件の窓口は弁護士事務所になるとの内容で。
いつもながら事務所に在籍する先生方の名前が連なる手紙は壮観だ。
この類の苦情は多い。対応の拙さに対する指摘をするが、
ホテルは調査したうえで返事すると言ったきり何ら連絡がない。
その時の思いがよみがえりもするだろう、ましてや自分が想定した回答ではない。
ヒステリックにもなるのも分かる。ただ、これに対応するスタッフも人間だ。
いきなり罵声を浴びせられれば、相手をクレージーとも思う。
さて、一般的に調べた結果をお客様に伝えるのは一両日ぐらいまでか?
それが難しいのであれば、あらかじめ日数をいただくか、途中経過を連絡すべきだろう。

私が耳を疑ったのは、さんざん苦言を言われながら、それでも何もしなかったことだ。
その結果、社長宛に手紙が届くことになる。こうなると後手だ。
おそらくあの勢いで言われたから何も手に就かなかった。
というのはわかるが・・・基本的に嫌なことは、早く取り掛かるべきだろう。
一般的に遠方、かつ難易度が高い問題に対処する場合、一人では行かないのが原則だ。
まず危険の回避、土地に不案内それだけで不安だ。また相手はどういった人物かわからない。

さらに、聞き取り役が必要だ。中立でないのに、必要かと思う人もいるだろう、
しかし交渉役は冷静に話の流れを理解できるものでもない。後々報告必要となる。
最後にお詫びであれ、交渉であれ、上司の存在というものは重要だ。
おそらく、この時ホスピタリティリレーションズの課長は状況を部長に説明はしていたのだろう。
部長の役割は担当者の支え、後ろ盾となることであり、総支配人に説明、調整を図ることである。
こういう方向と思っていたことが、総支配人に呼ばれて指示を受けたら、意向が全然違っていた。
先方が全く納得せず、怒りがエスカレートしているのに、何ら携わろうとしてもらえない。
こんなことが続くと気持ちも萎えてくる。

そして、苦情処理、交渉事において、こうした状況が負のスパイラルを招いてしまう。
苦情処理、交渉については別の章でまた記す。
方向性がしっかりしていて、後ろ盾がいれば、こんなにやりやすいか・・・
さて、弁護士事務所に手紙を発送していただいたのち、この件はどうなったか?
当然当社にも苦情を言ってくるものと思っていた。――なかった。

弁護士事務所には2通手紙が来たという。ホテルニューオータニを「社会の悪」と断じ、
テレビの公開番組でその是非を問う、と意気込んでいたという。
ホテルニューオータニのような社会悪を弁護士のあなたがたもしっかり注意しなければなりません。
だいたい、この手紙をちゃんと読んでいるのかとの文面。

返信内容。
ー読んでいます

それで、すべて終わった。その後連絡はなかった。
もちろん、テレビで公開討論されることもなかった。
こうした対応でよかったのかわからない。
総支配人は、社長名での詫び状を要求された段階で、先方が納得する終結はあきらめたようだった。
本音はわからない。

「じゃー請求、まわしてくださいね」
「いや、顧問料いただいているので、いいですよ」
「いや、それじゃ、切手代も出ない」
「大丈夫ですよ」
「いやいやいや、それじゃ切手代だけでも請求してください」と、
ここでは、ずいぶん細かい交渉になった。

第五章 前半 :苦情、指摘事項には速やかに連絡を

2017年11月30日 木曜日

特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

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●異動とともに苦情処理か
長年ゲストサービスをしていると、このクレーム、このコメントには速やかに対応しなきゃいけないな、
さもないと後々大きな苦情になる。と直感が働くときがある。
一方、このような内容だからとうかつに連絡すると、
「あなた、名前は?」と聞かれた挙句、さんざん苦言をまくしたてられることもある。
その上、後処理まで背負い、踏んだり蹴ったり・・・
いずれにしても、こうしたものに日頃から目を通していると、その後というものがなんとなく読めることがある。
平成16年3月、4年間勤務したゲストサービス課からホスピタリティリレーションズに異動となり、引継ぎをした。
このような場合、業務内容はだいたい自分が興味を持って取り組んでいるものが中心になるもので、
ある課長については、コンシェルジェ的業務の資料、ビジネスセンターのことが主だったようだ。
スタッフの話題も必然的にそちらで「アシスタントマネージャーの皆さんは各々やっているから・・・」で済まされ、
「苦情多いから、結構出かけられました?」
「え、めったに行かない。一度、当日急に言われて・・・困っちゃうよね」と言っていた。
困っちゃうって、山本リンダじゃあるまいし・・・この仕事だから急に外出することは覚悟していたけれど、ホッとした。
そんなにお詫びに行くもんじゃないんだ!と。

この時、未解決になっている苦情が1件あることを耳にしていた。
発生してからすでに一ヵ月あまりだが、未だに先方からは何度も電話が入っているという。
先方は、レストラン利用の女性客。ウェイターに羽田空港までの所要時間を尋ねる。
20∼25分との返答。その通りにホテルを出発したら、乗るべきフライトに間に合わず。
さっそく当ホテル副支配人席に連絡。
電話に出たマネージャーは小馬鹿にしたような口調の挙句「ありえない」と言った。その日都内のホテルに宿泊。
翌日、その女性客より再度入電。

課長は失礼な対応があったことをお詫び申し上げ、状況を確認したうえで改めて連絡すると伝える。
相手からは具体的な申し出はないが、以下のような話だった。

・空港で取り乱し、衣装を汚した
・体調を崩したうえ、誤った案内のおかげで飛行機に乗りそびれた
こうした状況よりやむなく東京都内のホテルに宿泊した。

以上が、当時の内容である。課長は該当するスタッフよりヒアリング。その結果
「先方は完全なるクレーマーであり、要求には応えられない」と結論付ける。

しかし、スタッフに確認していたからといえ、時間をかなり費やしている。
1週間たっても、先方に連絡をしていなかった。
先方はこの件について、軽んじられていると思ったろう。
結局、先方から連絡が入って、ようやく結論を伝えることになる。

こういった件だから、いい加減なことは言えない。この課長のことだから情報を正確に伝えようと意図したのだろう。
いずれにしても先方は威嚇するような暴言を繰り返すことになる。
この後のやり取りは録音されていたが、聞くに耐えない。

「これはもう異常だよ」 マネージャーは口々に言う。
たしかにこの会話だけ耳にすれば、そう思えなくもない。

「このあと、どうするんですか?」

「対応するつもりはない。手紙出して終わりにする。書く?」

「やだ」

先方はすでに社長宛に手紙を書いていた。異動の翌日、総支配人に呼ばれる。

「これ、社長宛に届いたから対応して・・・」(嫌な展開)
宿泊部では、先方の希望には沿いかねるというのが結論だ。この趣旨に沿って手紙を作成する。

「どうでしょうか?」

「あのさ、ことが起きてから1か月以上もいい加減な対応してきたわけだ。こちらから連絡して、まずお詫びして・・・」
(正論だ、でもなぜ自分に)

「わかりました。では、総支配人室の椿という言い方をしてもいいですね。それで・・・
お客様とは調整を図り、妥協点を見出すということでいいですか?」

「いいよ」

数度連絡をする。先方は、ホテルとして誠意ある対応(お詫び)を示してほしい、
また、今回まで対応してきた課長を含めたスタッフに厳しく注意すること。

以上2点を希望事項としておっしゃてきた。
なんでもないようだが、なんか厳しい申し出のような気もする。総支配人に説明。

「先方のところにお詫びに行って、決着つけてきて」と総支配人の指示。行先 岡山市内。
当初、前課長と同行する予定だったが、最終的に先方が拒否。
理由、よからぬ後ろ盾がある。

私より2年先輩のフロント統括支配人(女性)から
「ひとりで大丈夫?相手はあんまり岡山のいいところに住んでいないから、変なところで会わないほうがいいよ」
と言われる。

もともと、今回の件に関して最初からの流れを知ってる人間が担当すべきと認識していて、
何かと気を使ってくれる。そう、行く前にどこの印刷屋で作ったのか

 総支配人室  椿 益紀

という名刺まで用意してくれた。きれいな名刺じゃないが・・・

第四章 後半 :思い込みで物事を決めていないか

2017年11月15日 水曜日

特別連載企画

~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~

●大丈夫と思い込んでいることが危ない
前半では、どこにでもありうる「~に違いない」という“思い込み”によるハプニングを紹介したが、
自分だけでなく、今の会社に移ってから、同僚がこんな思い違いをした。

お客様からの問い合わせに1週間間違えて会場を押さえた。
ただし問合せ票にはその経緯は一切記されておらず、ただ押さえた日程のみ、
その会場、時間が当たり前のように記入されていた。
1週間たちお客様から連絡が入る。「実施する」という決定の知らせ。
電話をとったのが別のスタッフだったが、どうも嚙みあわない様子だ。
ただ、非常に勘の鋭い人間なので、お客様のいうことをしっかり聞き
「確認させていただき、改めて連絡いたします。」と結んだ。
内容は、「お客様が言っている日程と押さえられている日があわない。」
担当者は面倒くさそうに「向こうが日にちを間違えているんだろうな。」
「でも、しっかりとした言い方でしたよ。いずれにしても、この後申込書が届いたら、私連絡します。」
「いいよ、自分の方から連絡する」
「ところで、お客様の言ってる日程っていつなの?」
その日程で会場の空きはなかった。
「申込書が届いたら、連絡しますので、大丈夫です。」その自信はどこからくるんだろう。

会場を押さえたときの、経緯、やりとりが見えてこないし、本人も自分で処理したいのだろう。
委ねるしかない。それにしても押さえた日程を確認書で伝えていないのか?
まあ、この施設では私より古いので、あまり指摘しないけれど・・・
申込書が届く。お客様に連絡をした担当者の表情が硬くなっている。
電話している担当者の受け答えを聞いていると、予想していた通り非はこちらにあるようだ。
「会議だよね?社内、それともクライアントとの・・・?」
「社内ですけど、全国から役員の方が来るようです。」
「それなら、新宿でやらなきゃいけない必然性はないわけだ。
えーと、取り急ぎ、こっちの会場、仮予約のこの物件、やるかどうか確認して・・・
これはほかの施設に振れないから、決定ならやっぱりこちらに他施設でできないか、当たるしかないね。」
まずは対応策を考えねばならない。
たしかに、ホテルニューオータニ時代の上司で大学の先輩でもあり、
営業を中心に勤務していた人間がいたが、この人もやはり2,500㎡の会場を異なる日程で押さえてしまい、
それに気が付いたのが3,4日前ということがあった。しかしながら運を呼び込む人だったのだろう。
その日会場は空いていた。よせばいいのに、こういう緊張感に包まれていると、この話をしてしまう。
 それにしてもこうした思い込みというのは意外と多い。
意識の中でこうだと思っていること、希望していることなど。
そういったことに少しでも関わると、自分の都合のいいように考えてしまう。
間違いを間違いと認識せず、勘違いしたまま見過ごしてしまう。
常なることだが、こうしたことが発覚すると、「どうしてこういうことになるんだ!」と訝しげに口にし、
「二度とこのようなことがないよう徹底するように」と注意を促される。当然だ。
しかし一方、スタート時点でボタンの掛け違いをしているのだから、注意の喚起も的外れになることもある。

注意することは当たり前のことだが、打ち合わせのやり取りをメモすること、
情報を自分だけのものにとどめないことが重要であり、会場の押さえなどした場合、
必ずクライアントのお客様に確認書を送る。
そして何よりも、自分のやることに間違いはない、という過信をもたないことだ。
ホテルニューオータニ時代によく言われたことがある。
打ち合わせをしておいて、「前年通り」で済ませるような物件はない、と。
主催者側の窓口は前回と同じ人かもしれない。
しかし、スタッフには初めての方もいるだろうし、お客様の多くは初めてかもしれない。
利用するお客様には、常に初めて利用するお客様というつもりで丁寧に接しなければならない。
前回、利用した時、受付の状況はどうだったか、手配書には何も書いていないのに、
当日清算書には追加事項があったりしないか?終了時にタクシー利用者で混雑しなかったか?
「前年通りでお願いするよ」こう言われたら、少なくとも、前年の状況を確認することが必要だろう。
前年通りと記入して、それまでの内容を見直さず楽観視してしまうのは恐ろしい。
それにしても子供のころの記憶って根強く心に焼き付いているものだ。
思いの積み重ねが思考回路を形成している。
そして、こういうものだという思い込みも同じく積み重ねて思考回路を形成しているのであろう。。。。

第四章 前半 :思い込みで物事を決めていないか

2017年11月15日 水曜日

特別連載企画
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~
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こうだと思い込んでいることって・・・
私がまだ幼い頃は、どこの家庭も三世代が同居し、隣近所とのつながりも強かった。
当然ちょっとしたことでも隣近所の人達は口を挟み、
テレビを観る為に居間に誰もが上がりこんでくるから、共通の認識をもつ番組が映し出されていた。
自分と周りの人は同じ環境や時間を共有することが多く、価値観や考えも自然と似ていたのだ。

もちろんテレビで個人的に好きなものを観ること等叶わず、家族団欒、
いや近所集まりの象徴としてテレビは存在していた。
「巨人、大鵬、卵焼き」とはよく言ったもので、現代にはあまり考えられないが、
本当にどこの家庭でも同じものに関心を抱き、似たようなものを口にしていた。

さて、大相撲がにわかに脚光を浴びている。日本人横綱が誕生したこともあるが、
個性ある若い力士が出てきたことや、勘定合わせの一番が無くなってきたような気がする。
この私がまだ幼い頃、夕方は必ずNHK 1チャンネルをつけて、大相撲を観ていたものだ。
ちなみに、結びの一番で行事の木村庄之助が「この一番にて本日 打ち止め」といい、
これが千秋楽だと「この一番にて千秋楽」という。
ところが、幼い私には、聞き取ることができないため、
この最後の「打ち止め」という言葉を「一同ね」としばらく記憶していた。
当時は「キングコング対ゴジラ」という映画だって、コング=サルということがわからず、
ゴリラとゴジラのイントネーションが近いからキングコングをゴジラと思っていたほどだ。
20代前半のころ、向田邦子さんが描いたエッセイ集「眠る盃」と「夜中の薔薇」が刊行されたときは、
思わず同じ“思い込み”の現象だと笑った。「眠る盃」は、
「荒城の月」の一節“めぐる盃”を“眠る盃”と覚えていたという向田さんの話。
「夜中の薔薇」はシューベルトの「野ばら」の“童は見たり野中の薔薇”を
“夜中の薔薇”と歌っていた友人の話、からそれぞれ名付けられている話だ。
思い込みとは至る所で起こっているのだと分かった。
そういえば、ホテルでフロント業務をしていた時、呼び出しを依頼されたことが何度もあった。
男の声で館内呼び出しはせず、女性スタッフにお願いするのが常だ。
女性スタッフが不在の時はオペレーターに依頼するが、そこで思わず笑ってしまうミスをしたことがある。
カウンターで館内の呼び出しを依頼しようとした。
「お名前は?」
「Mr.Wall,壁のウォールだよ」
女性スタッフがいないので、電話でオペレーターに依頼をした。
「呼び出しお願いします。お名前はMr Wall 壁のWallね」親切に言ったつもりだった。
そして、流れてきた呼び出しは「Mr カベノウォール」。

何より、おかしかったのは依頼した本人である私が全然気が付かなかったことだ。
自分が依頼したものが間違って呼び出されたとは思いもよらず、
正しく呼び出されるに違いないと思い込んでいたのだ。
このように、何か依頼するときに観点がズレるとこんなことになる。
どうやら人は誰でもこういうものだと想定して、結論に結び付けるところがあるようだ。
知識、意識を白紙にしてもらうよう説明しなきゃいけない。
宴会予約時代も「勘違い」「思い込み」でミスをしたことは多かった。
ブライダルについては当人たちの思い入れも強いから、丁寧に対応しなければいけない。
特に手配事項はそこに記されたものが、すべて手配される。
うっかり間違えて書き込めば、その通りに間違えて発注されるのだ、
日を経て、それを見たとき「あれ、おかしいな」と思えばいい。
しかしながら多くは見過ごしてしまう。メモ書きのようなものなら疑いも抱くだろう。
しかし、しっかり記されていれば、間違いないものと認識する。
私自身もこんな出来事があった。
お客様はケーキを伝統ある「クロカンブッシュ」に指定されていたのだが、
なぜか私は「イチゴアーチ型」に〇をつけていたのだ。
自分の意識の中でクロカンブッシュやイチゴのフラットなものは結構馴染みがあったが、
イチゴの背を高くしたものはあまり注文したことがなかった。
それで、妙に気になって〇を付けてしまったのかもしれない。
幸い始まる前に指摘があり、ペストリーのコックが急いで作りケーキカットに間に合うようにしてくれた。
もちろん終了後にどやされたことは言うまでもない。
この時、私は「心ここにあらず」という感じで、確認もせずに思い込みで決めていたような気がする。
つまり打ち合わせの時にメモもとらず、打ち合わせ終了後にまとめて記入。その時に思い込みで記入したのだろう。

第三章 後半 :ちょっと得するプロトコルの意識

2017年11月9日 木曜日

特別連載企画
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~ 

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知識を会話に生かそう
前半では、催しや慣習に関して行われる国際儀礼 “プロトコル”とはいかなるものか、
そして、実際はどのようなことに気を付けながら行われる慣行であるかをニューオータニでの事例をもとにご紹介した。
こういった事例を知識として頭にいれておくと、宴会場の配置、着席順など説明するときに役立つだろう。
たとえば、お客様をお招きしての会食のとき、
「プロトコル上でも、また日本の慣例でも入り口側がホストになりますね」と説明すると説得力もあるだろう。
以前、こんなことがあった。
私は宴会関係の職務ではなかったが、たまたま宿泊しているお客様を宴会場に案内していた。
利用目的は会食。庭園に面した会場を勧めていた。
この会場は待合スペースもあり、会食スペースは1枚板で10名着席・窓側5名、廊下側5名となっている。
春、桜の咲く時期だけでなく、四季折々の表情をのぞかせる会場である。
たまたま宴会場の社員がいたので、説明をしてもらう。
「席の割り振りはどうなるの?」
「お客様はそれぞれ何名様ずつになりますか?」
「お招きするお客様4名、ホスト側4名です。」
「この会場はごらんいただいている通り、お庭に面した会場です。
ホテルニューオータニでは、この会場につきましては、お食事とともにお庭も見て楽しんでいただけるよう
お客様側がこちら入り口側にご着席いただいております。」
「いつでも?」
「はい、いつでもそのようにご用意しています。」
・・・こうまで断言されると、言葉も挟みにくいけど・・・違うでしょ。

 「それはホテルの論理だよ。それを絶対的なものとして押し付けるもんじゃないんじゃないかな?
会食といっても商談が中心で食事はとってつけたようなものだったら、オーソドックスな席の配置になると思うよ。」
確かにこの社員の意図も間違いではないかもしれない。
でもお客様が利用する用途は多岐にわたるし、その利用内容、目的によって仕様がっては異なってくる。
おそらく、この社員は先輩社員に会食で利用されるとき、どのような形式が多いかを説明受け、
それを絶対的なものとして認識していたのだろう。
でも、プロトコル上はどう、日本の慣例にそったらどう、もしカーテンを閉めて調印式などで利用されたらどうだろう?
もし、ホスト側は入口の方に着席しなければならないと教育を受けていれば
その教えを旨とし、業務に就くのだろうな。
思うのだが、“どうしてこうなるか”という理由づけを理解しないで、
結論ばかりを追う人間がどうも多くなったような気がする。
だから、決定事項が絶対的なものとして捉え、疑いをもたない。
これもいいけど、あちらもいいな、そんな考えってあってもいいだろう。
少なくとも席の配置というのは、利用する目的によっていろいろなことが考えられる。
大事なことはいろいろな情報を伝え、お客様が納得して自分たちの結論を引き出せるようにすることだ。
そんななかで説明するとき、実例を挙げたり、慣例を説明したりすると、お客様は耳を傾けるものである。

プロトコルっていい武器になるよ。

第三章 前半 :ちょっと得するプロトコルの意識

2017年11月9日 木曜日

特別連載企画
~ クレーム対応のベテラン、椿氏が語る ~  

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●大喪の礼の思い出 
今の会社に入社して1年あまりたったとき、同じ施設の同僚から尋ねられた。
 
「入社式で看板に日本と社旗をつるすらしいんだけど、日本左でいいんですよね?」  
「プロトコルで上位が左ですけど、法的根拠はないですよ」 

外交上の“プロトコル”とは“国際儀礼”と翻訳され、
催しや慣習に関し、歴史的事例に基づいて行われる慣行のことをいう。 

たとえば、車に乗るときの序列、エレベーター乗車時の位置、
公式の国家間の会食における座席の位置、 また国旗の並べ方など様々な規定がある。    
私が勤務していたホテルニューオータニは海外の国家主席や閣僚が利用することも多く、
玄関前のポールに国旗が掲揚されることも通常の光景だった。
また来館時には招かれた国の旗と招聘した日本の旗をロビーにセットし、その前で歓迎の意を伝えていた。  
2000室程度の客室を有し、2500㎡の会場をはじめ33の宴会場を持っていたため大きな一行が利用するには便利だ。
ロシア、中国、大韓民国、サウジアラビアなど200名規模となると、使い勝手のいいホテルだった。  
そんなニューオータニのみならず、都内のホテルがいずこも緊張感に包まれたときがあった。
1989年の年明け、まだおとそ気分が抜けない7日に昭和天皇が崩御した。
年号が平成に変わるとともに葬儀=大喪の礼が2月24日に決まる。
各国はその国交関係のつながり、国情に合わせて参列者が来日する。その数150。これに各国際団体なども加わる。
当然、日帰りで来ることはない。各国は礼を尽くして参列する。
よって、体調を鑑み数日の滞在をするのが一般的だ。 大使館を利用するという国もあった。
しかし大半は都内のホテルを利用した。 あの時、ホテルニューオータニは50か国程度の国が利用しただろうか。
利用する国、宿泊者、そのタイトルが続々入ってくる。ホテルは接遇事務局を作り、対応内容を決める。
何より、今回はさまざまなホテルに宿泊している参列者がプロトコル順に会場に入るから、接伴員が配置される。
1対象につき1名。これに外務省の担当者も配置される。 接伴員の業務内容は次の通りとなる
。
・接遇対象者のホテル館内の移動について同行、案内する
・翌日のスケジュールを確認し、ホテル事務局に連絡。食事の予約手配をする。
・外務省担当者と連絡を密にし、漏れのない接遇に努める
こんな感じだったか。   

プロトコルの観点から言えば注意点は大喪の礼当日、対象者をいかに正確にホテルから出発させるかに尽きる。
ここで、参列者のプロトコル順の序列を残しておこう。 

・皇族・・・国王、女王、皇太子
・国家主席・・・大統領、国家人民代表、首相
・閣僚・・・各大臣
といった序列になる。

もちろん次官クラスとなればこの次になる。
では、フランスとアメリカの大統領だったらどちらが上位になるか?これは在位の長さによる。
なお、同じ国家主席であっても、首相より大統領が上位になる。   
さて、この多くの対象者がプロトコルの序列に従って、会場に入る。つまり下位の者から順に到着。
そして出発時は上位者から会場を後にする。これを会場に入る前の道路で日本の警察は調整したのだ。
それはマラソンや駅伝の比ではなかったろう。
当然ホテル側もその会場(たしか新宿御苑だった)の到着時間を確認して逆算する。
その対象者の歩くスピードから客室からエレベーターホール、エレベーターの乗車時間、
ロビーでのエレベーターから玄関までの所要時間。これを何基かのエレベーターを専用にしてコントロール。
50もの対象を予定通りに送り出したのだ。  この時、各国の参列者はそれぞれの礼服を着用していた。
東京は雪が舞う陽気だったが、薄い民族衣装で出席するアフリカの国々の方も多かった。
プロトコルとはいかなるものか、どのようなことに注意するか説明を求められたら
この日の動きを詳らかに伝えれば目に浮かぶだろう。   

さて、旗の話だ。  
基本的に外から見て、左側が招かれたゲスト側、右側はホスト側、
日本で目にする場合日本は右側にセットされるのが普通である。
3か国になるとホスト国の旗をはさむ、4か国以上はアルファベット順で左側からというのが一般的のようである。
 
では、入社式のときはどうか、、、
日本の旗は国内では右だからといって社旗を左側にセットしたら一般的には違うと思ってほしい。
プロトコル上は、招待される上位国を左にするもので、入社式という会社主催の催事のホストは会社側である。
よって、右のホスト側に社旗、左に日本の旗というのが一般的である。  

ただ、「いつも日本の旗は右だと思っていた。」と言う新入社員がいたら、
「注意深く見ているんだね。ホテルでアルバイトしてたの?」と褒めてあげてもいいだろう。

~第三章 後半につづく~
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