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「言葉の階(きざはし)」第十六章:脱脂粉乳ミルク


「言葉の階(きざはし)」第十六章:脱脂粉乳ミルク

特別連載企画 第十六章 ~ 脱脂粉乳ミルク ~

私が小学校に通っていた時代、昼食はお弁当ではなく、給食だった。
メインの料理の他にパンとミルクがついていたと記憶している。
ミルクといっても、牛乳ではなく、脱脂粉乳と呼ばれるものだった。
脱脂粉乳なんてその音の響きからして、いかにも味はひかえさせていただくという感じだが、
あの頃他に比べるものもなく、毎日そればかりを口にしていると欠かすことのできないもの、
と思いこむようになっていた。

これを飲めば大きくなると、まるで呪文のように聞いていたが、入学以来一切口にすることがなかった同級生が
私よりも大きくなって卒業した。
小学生の頃って、事あるたびに結構クラシック音楽が流れていた。
運動会の時はもちろん入学式や卒業式などの行事。また、給食の時間は全校に音楽が流れていた。
クラシック音楽は普段の生活で、さほど馴染み深いものではないが、それでも気持ちを和らげるものがある。
音楽の分類で、たとえばジャズはリズムだろうが、クラシックはメロディー重視ということになるだろうか?
いずれにしても耳にすれば心地いい。特に食事時というのは、気持ちが穏やかになっていて、
動より静の状況に合うものを好む。行進曲や序曲の類ではなく、管弦楽曲、ピアノ独奏曲などが耳になじむ。

そのような馴染み深い曲の中で、かなり印象に残っているのが、サンサーンスの「白鳥」である。
特に好きなわけではない。ただ、あのチェロの音色が不思議と耳の奥に残り、
午前中の授業が終わったときの独特のアンニュイな気持ちがよみがえる。
脱力感、というか眠気・・・なんにしてもけだるい感じだ。

脱脂粉乳はミルクの粉を湯で溶かしたような代物である。
あまり飲みたくないからと、あるいは熱いのは苦手といつまでも口に運ばないでいると、表面に薄い膜ができてしまう。
これが無気味でかつ美味といえない代物だ。
ましてや口の周りにまとわりつくと、サンタじゃあるまいし、と指で拭うのである。

時折、同世代の人間と小学校時代の頃を話すことがある。
現代と異なり、モノもなく、経済的にも恵まれてはいなかった時代だが、共通の思い出があふれ出す。
そんな話題の中で、「脱脂粉乳」の話も出たりする。
「ありゃまずかったな」と共通の感想だが、インパクトは強かったのだろう。

ところで、あの不気味でうまくもない「脱脂粉乳」を思い出すとき、
なぜかサンサーンスの「白鳥」のメロディーが耳についてくるような感覚になる。
逆もまた然りで、パブロフの犬のように「白鳥」を聴くと、
あの味が、あの器に入った白い飲み物が目の前に浮かんでくる。
ちなみにこんなふうにクラシックの曲をイメージ作りして、覚えようとした。
シチューでベートーヴェンの「田園」、カレーはビゼーの「アルルの女」、
リンゴは「ウィリアムテル序曲」のように。こんな覚え方だから曲目を思い出すときが大変。

「ほらほら、シチューの味の名曲だよ」「シチューに関連した曲?」
誰だって「田園」を思い浮かべているとは思わないよね。
普通の生活の中で、子供の頃の私たちは、自分に合う覚え方をしていたような気がする。

私の場合、余計なことばかり記憶に残る。

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