「言葉の階(きざはし)」第十七章:お中元
「言葉の階(きざはし)」第十七章:お中元 特別連載企画 第十七章 ~ お中元 ~
旧友からお中元が届いた。 何かを頂けるようなことなどしていないので、「そんなに気を使わないで・・・」と言いながら、 やはり頂くと悪い気はしない。こういったものを頂ける立場ではないが、 ニューオータニ在籍中、所属が宴会予約だったときは、身分不相応にもかなりの品数が届いた。 外部の関係会社に注文をする業務だったから、各会社とも営業活動の一つとして躍起になっていたのだろう。 お中元、お歳暮というのは日頃お世話になっている上司、親族、近所づきあいも含め 個人的に交遊のある方にお礼の意、健康を祈願するためにお届けするものである。 お中元は夏までの半年を、お歳暮は一年間のお礼となるから、 一年に1度という意図があれば、お歳暮で済ませるというのが一般的だ。 小学生の頃を思い出す。当時は近所の付き合いが盛んで、子供同士もよく遊んだが、 親たちもあちこちの家に顔を出してはよく話をしていた。 旅行に行ったりすると、お土産を用意し、盆暮れの時期になると、 「日頃のお礼」とモノを携えて近所の家々を回る人たちもいた。 我が家はこうしたことに気の回る人間はおらず、受け取り専門だった。 当時、乳酸菌飲料のカルピスが子供たちに圧倒的な人気だった。 グラスにすこ~しのカルピスを入れ、冷蔵庫の氷をいくつか入れて、水を灌ぐだけ。 これが夏、お中元の定番だった。景気のいいときはフルーツカルピス、もしくは通常のもの2本セット。 だが、1本だけというのが一般的だった。ちなみに冬は石鹸。おもしろくもなんともない。 「つまらないもので・・・」と言われると、思わず「本当に」と口に出そうだった。 もとより品物を持ってくる方々は「いいもの」を届けようという意識は薄い。 「季節のご挨拶」という意図が強く、モノより気持ち、その意を伝えることを主眼としている。 私は「季節のご挨拶」として届けるものは、こういったものが本来の姿だと思っている。 しかしどうだろう?人にお世話になり、営業としての仕事をしていたりすると、 「恥ずかしくないモノ」「他の人よりいいもの」、 すなわち料金的にそこそこのモノを選ぶようになりがちである。 そして肝心の品物であるが、概ね宅配便で届けるようになり、 「お世話になっています」「よろしくお願いします」という言葉は置き忘れてしまっている。 ただ、品物が流れるだけだ。 夏に入ったばかりの頃、後輩と居酒屋に入った。飲み物のメニューを見ると、 ビールやハイボールといったアルコールに混じってソフトドリンクが記されている。 内容をたどっていくと、ジンジャエールやウーロン茶などとともにカルピスが記されていた。 アルコールを口にする人が減少している今日、アルコールが含まれていないものも多くなければならないだろう。 ただ、乳酸菌飲料ってなんとなく違和感がある。 「カルピスって注文する人っているのかな?」と口にしようかと思ったとき、連れの一人がカルピスを注文した。 「最初だけです」と言っていたが、3時間近くカルピスで通していた。