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「言葉の階(きざはし)」第十八章:日比谷映画街


「言葉の階(きざはし)」第十八章:日比谷映画街

特別連載企画 第十八章 ~ 日比谷映画街 ~

東京ミッドタウン日比谷がオープンして半年余りになる。
私たちの世代にとってこのあたりは、ファッションもいいけれど映画街のイメージが強い。
誰もが一度ならず映画をデートの場所に選んだのではないだろうか。
この東京ミッドタウン日比谷のあたりはそんな映画好きの人間にとってどの映画館よりも憧れがあった。
アメリカ、ロスアンゼルスのチャイニーズシアターの前には多くの映画人の手形が地面に彫られているが、
ここ日比谷もそれを模して日本の映画人の手形が地面に収まっている。
有楽町駅を降り、新橋方面にしばらく歩を進めると日比谷映画街があった。
円形型でアクション映画中心の日比谷映画劇場。大作なら四角い劇場有楽座。
アカデミー賞候補作ならみゆき座。そして女性映画ならスカラ座と映画館はそれぞれの特色を出していた。
それ以外に邦画上映館の千代田劇場。少し離れたところにニューシネマのスバル座があった。
映画なんてどこで見ても同じと思うだろうが、東宝の映画ならここと、なぜかこだわりがあった。

「アラビアのロレンス」が何度目かのリバイバルで公開されたのは、高校に入学した頃だったか、
男性向けスペクタクル映画、名作だが、上映館はなぜかスカラ座。ここはちょっと苦手な劇場だった。
何しろ宝塚劇場があり、建物の周りは平日でも女性客が列を作る。
チケットは1階の売り場で購入し、劇場のある5階か6階にはエレベーターで上がる。
当然乗れば「ご順に前にお詰めください」と、声をかけられる。
劇場のあるフロアーに着けば、扉側の人から降車するわけで、
最初に乗った人は降りる時は最後ということになる。

当時、映画は今日のようにチケットを求めたときに、席が指定されるわけではなかった。
スカラ座は1500席近い座席があったが、それでも見やすい席は埋まってしまうかもしれない。
「アラビアのロレンス」は3時間半の大作で、端の見にくい席だったらいやだな、
さらには万一座れなかったら、長い時間立ち見・・・なんて耐えられない。と不安になっていた。

このように女性客が多く、なんとなく入るのが気恥ずかしいということと、
この映画館の構造のためなんとなく足を向けたくない映画館だった。
それにエレベーターの扉が開いても、私は急ぐようなことはできなかった。
こんなところで急ぐな、悠然と構えよう。
そんな気持ちにはなれないのに、なぜか粋がってやせ我慢をしていた気がする。

「エレベーターの話」は故向田邦子氏も何かの随筆で、
たしか落語を聞きに行った時の逸話として描いている。
「私の方が先なのに・・・」と書きながら全然嫌味にならない。
軽妙な文章に我々はただ「ある、ある」と頷くばかり。

今日、映画館はシネコンと呼ばれる、一つの建物の中にいくつものシアターが入る形式になった。
「今日何観るかな、」と作品名と上映時間を観ながら決める。
アメリカの大迫力の映画が小さなスクリーンのシアターで公開され、
日本のアニメが一番大きな会場でかかっていることも当然の成り行きだ。
観に来ていただいたお客様がしっかり御覧になることが何よりなのだから。

しかし、あの頃劇場に足を踏み入れたときに感じた高揚感は、ない。
それにスクリーン1とか2じゃ、やっぱりしっくりこない。
〇〇劇場、▲座、やはりこれでないと・・・

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