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「言葉の階(きざはし)」第二十七章:陽はどちらに沈む


「言葉の階(きざはし)」第二十七章:陽はどちらに沈む
特別連載企画 第二十七章 ~ 陽はどちらに沈む ~

 日本の地形はだいたい頭に入っている。
だから47都道府県の位置はもちろん、県庁所在地も頭に浮かぶ。
しかしながら私の思考回路はだいたいわかればいい、
凡そのモノや数字までしか頭にない、といったことが多い。
細かいところまで覚えようとしない。
だから、大学受験のとき、選んだ社会科の科目は
当時まだ好きだった地理でも日本史でもなく、世界史だった。
馴染み深い地理や日本史は、教科書を頭に入れるだけじゃ通用しない設問が出るような気がしていた。

 ちなみに世界史は興味がなく、受験でも全くダメだった。
あれは、高校何年の時だったか?恩師が突然、その時代を思い起こすように話し出した。
それは幼少の時の「疎開」の話。とはいえ、怖かったとか不安だったということではなく、
疎開先の新潟でみた「日本海に沈む日の入り」の光景の話だった。
つぶやくように断片的に口にした話を、私は次のように認識した。

 新潟のどこだったか、記憶にもないのだが、
日本海に面した温泉から見た夕日が何とも言えず美しかった。
できることならあの地にもう一度行きたい。

と、考えたが、どうにも合点が行かない。
当時いくら幼くても、どこに疎開したかなんて、
その後誰か大人の人に聞けば地名くらいわかることだ、なぜ・・・

 私たちが通っている高校は東京都と神奈川県の境を流れる多摩川沿いにある大田区の高校だった。 当時私はラグビー部に所属していたが、勝負に執着する気持ちは微塵もなかった。 晩秋から冬にかけての練習は、多摩川べりのグランドにたどり着くと、 カラスが「カァーカァー」と家路を急ぎ、瞬く間に日没の頃を迎える。 ろくに練習もできず、いかにも残念そうに(残念なんて想いはこれっぽっちもなく) 空を見上げると、もう星が出ている。  多摩川の方に目をやると、大きな夕日が川崎の家並みに沈んでいく。 「あれ」なんとなく変な感じだ。川崎市は多摩川を挟んで南に位置する。 多少のズレはあるにしても、間違いなく太陽は南寄りに沈んでいく、と浅はかにも断定していた。  冷静に考えれば、誰でもこの事象はたやすく正論に導いていける。 まず、秋、冬と寒い季節が深まるのは日照時間が短くなるのも一因だ。 そして、この短くなるのは、太陽が昇り沈むのが少しずつ南により角度が浅くなるからだ。 この時、思いつかなければいいのに、余計なことを思い出した。 先生の新潟で見た「北の日本海に沈む太陽」。まさにこの多摩川で見たものと似たような現象だ。  とかく思い込みによって、物事を結論付けることは多い。 私はさらに自分の出した答えを実証することもなく、正しいと思い込んでしまうのだ。 幸い、自分の出した結論を口にすることもないまま歳月は流れた。 新潟の地形はその後すぐに認識。先生の疎開先が新潟県ではあるが、村上。山形に隣接する港町。 このあたり海岸線は西に面する。つまり新潟の海で日没を見れば、その3割は西側。 新潟ではよく目にする日没の風景だ。  それを  「太陽の日の出、日の入り時間は季節によって大きく変わります。  また海は三陸海岸のように入り組んでいるところも多くあります。」 なんかわかりにくいアプローチだ。単刀直入に聞いた。 「ああ、あれ瀬波温泉な。で、わかった?」 「・・・え、わかったって・・・」 「旅館名、まだやってんのか?」 恩師が話した内容は、私が認識したそれとは、大幅に違っていた。 

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