「言葉の階(きざはし)」第三章:三脚
特別連載企画 第三回
~ 三脚 ~
以前、大学で講師をしていた時、短期大学という女子ばかりのクラスだったからメールアドレスはオープンにしていた。 これが男子ばかりのクラスだったら、こうはしなかったろう。 こっちは渋い中年のつもりでいたが、自分の親父よりも年上の私のことをどんなふうに見ていたのだろう。 それでも、時折授業のことを質問してくれる生徒もいて、そんな時は勇んで懇切丁寧な返答をしていた。
二十歳前の女子大生。 身体は成熟していても、精神状態はまだ高校を出たばかりで、すぐにキャーキャーと騒ぐ。 まさにアンバランスな状態。 勉強というものを押し付けられる高校教育から出たばかりの彼女たちにとって、 自分の責任のもとに授業を選ぶことは多少の自由も感じたろう。 そしてアルバイトに精を出して、その報酬を手にすること、車の免許をとって、 自分のハンドルさばきで道を進んでいくこと。 どこか大人になったような気になってしまうのはごく自然なことだ。
夏休みに入った時期に、そんな生徒の一人からメールが届いた。 夏休みを元気に過ごしていることが感じられる文面だったが、 高校時代と比べ、明らかに自分自身も成長していると感じていたのだろう。 長い時間アルバイトに励み、休みには羽を伸ばしている。 でも、親は以前と変わりなく自分に注意を促す。 そんなことにストレスを感じている、といった内容だった。 私は、子供の躾に関してはあまり偉そうなことも言える立場でもない。 むしろ子供に声をかけるご両親がすばらしいと思ったが、思うこともあったのだろう。 立場上偉そうに返信した。親の気持ちを汲んでもらえるように。
**************************************** 子供を可愛くないと思う親なんていないだろうね。 ただ、その表現方法は知らないということは多いかもしれない。 親は周囲が思うほど、大人じゃないし、しっかりとしたものじゃないでしょうね。 子供にも親のそんな面を隠すことは難しいと思います。 そして、いつまでも子供のときの想いを抱きながら、 夢のかけらになってしまったようなそんなものを大切にしていることもあるんですよ。 考えてみれば、両親と子は三脚のような関係かもしれない。 けっしてどちらかが支えるものでもない。 甘えている子供でも、それだけで親に安らぎを与えているのかもしれません。 とすれば、子供であるあなたは、やはり自己をしっかりともつことかな。 ストレスは自分でコントロールするもの、少なくともそう心がけるものだと思います。 *****************************************
親子の関係とは微妙なものだ。 口うるさく言えば嫌がられるし、あまり声をかけなければ、距離が広がっていく。 三脚というのはご存知の通り、足3本で重心がしっかりしているものだ。 その安定感は4つ足や5本足より堅固だ。 しかし、それが一つでもなくなってしまうと、崩れてしまう。 子供として親を一人の人間としてみてもらいたかった。 さほど時を経ず、「よくわかりました」そんな返信がきた。